第175話 雪華の白鷺

 僕は時間の許す限り数真と遊んでやり、真古都さんとも一緒に色々な事をした。


料理をしたり

花の手入れをしたり


日常の些細な事も今の僕にはどれも大切なものだ…


何もかも全てが愛しかった…



先輩がパリで共同出展をする記事は偶然見つけた。


真古都さんが、時々凄く楽しそうにしている日が以前からあったのは気づいてた。


でも、それも花屋が上手くやれてるのだと安心してたのに…


あの出展記事で胸が重くなるような…

嫌な予感が躰の中を通った…


今回のフランスでの出展は偶然じゃないかもしれない…


そう思ったら確かめずにはいられなかった…


絵画展に真古都さんを連れて行った。

案の定…と云うべきか…

先輩のスペースには誰もいなかった。


でも…どこかで僕たちを見てるはずだ。


真古都さんは先輩の絵を見つめている…

他の所ではしなかったのに…


僕は面白くない気持ちもあって、その絵の前で彼女にキスをした。


もしどこかで先輩が見てるならそれで良い…

真古都さんは僕の奥さんだ…


僕たちは結婚してる。

もう、先輩の手の届かないところに真古都さんは居るんだと解らせたかった。


それなのに…!


まさか病院まで来てあんな宣告するなんて…


数真と真古都さんとの暮らしは

他のどんなものとも代え難い程大事だ…


だからこそ怖い…

いつ僕の心臓が止まってしまうのかが…


死ぬのも確かに怖い…

だけどそれ以上に怖いのは、

僕が死んだあと…真古都さんを取られてしまう事…


僕がいなくなった後、何の苦も無く

先輩は真古都さんを攫っていくだろう…


真古都さんと今の関係を築くのに、どれだけ僕が苦心したと思ってるんだ!


それをあっさり持っていこうとしてる…

そんな事させたくない…


真古都さんは僕のものだ…



「お…とーたんっ」


ベッドから数真が手を伸ばす。


「やっとお父さんって つながったね…」


「おとーたんっ…しゅき…」


数真が僕の指を離さない…


「はいはい…数真…

お父さんも数真が大好きだよ…」


僕の指を握る温もりが切ないくらい愛しい


「数真…お父さんはいつでもお前の傍にいるからね…おやすみ…」


こんな小さな数真を遺して逝くのは身を切られる思いだった…



「数真くん…寝た?」


ドアのところで待っていた真古都さんが訊いた。


「うん、今日は中々指を離してくれなくて、時間がかかったけどね」


「数真くんはお父さんが大好きだからね」


笑って話す真古都さんに、ちょっと意地悪を言いたくなった。


「真古都さんは?」


「えっ?」


思いがけない質問で戸惑っている…


「真古都さんは好きじゃないの?」


「えっ…えっ…えっ…」


困ってる顔…可愛いな…


「ねえ…どっち?」


躰を近づけて畳み掛けた。


「す…好きに…決まってるじゃない…」


真古都さんが真っ赤な顔で言ってくれる…


僕の心臓はその存在を五月蝿いくらい主張し始めた。


真古都さんの口から直に聞いたのは初めてだったから…


嬉しさと、愛しさで、どうにかなりそうだった…


真っ赤な顔を隠すように俯く真古都さんの顔を僕に向けさせると、そのままキスをする…


「真古都さん、今日は一緒にお風呂へ入ろう」




バスルームで真古都さんが困惑している。


「どうしたの?僕たち夫婦なんだし…裸を見られるの初めてじゃないでしょ?」


「そ…そうだけど…こんな明るい所で…

改めて見られるのは…恥ずかしいよ…」


真古都さんは胸を腕で隠しながら頬を染めている…


「わたし…数くんのお友達みたいに…綺麗じゃないし…スタイルだって良くないし…」


そんな事を考えている真古都さんが、僕は

今までで1番可愛く見えた。


僕は真古都さんの手を握って引き寄せた。


「真古都さん…僕に…

真古都さんの躰見せて…

真古都さんも…僕の躰ちゃんと見て…」


真古都さんは躊躇いがちに僕を見てくれる。


「これが…君のことを愛した僕の躰だ…

そして…君の夫だよ…」


僕は彼女を見つめて、まるで愛の告白のように言った。


「はい…旦那様…わたしの旦那様です」


僕たちは長いキスを交わし、お互いの躰を洗って熱い想いのままベッドに入った…


ベッドではこれまで以上に愛を囁いた…

言い忘れたことが無いように…

思いつく限りの事を彼女に伝えた…


君に会えて良かった…

君を好きになって良かった…


君をたくさん泣かせてごめんね…


君との結婚生活は幸せだったよ…


僕に…たくさんの幸せを有り難う…




次の日の朝早く…

わたしの旦那様は

まるで粉雪が溶けて消えてしまうように…

遠くへ行ってしまった…



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第二章 完


二章終わり…

ここまでお付き合い下さり、本当に有り難うございます。


応援して下さった皆さま、毎日の執筆の励みになっています。

本当に嬉しいです。


第三章では、真古都さんの心と、翔吾くんの奮闘ぶりを上手くお伝え出来たらと思っています。


引き続き応援していただけたら幸いです。

よろしくお願い致します。


          ✽✽ねこねこ✽✽







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