第169話 君だけに

 真古都さんとパリに向かった。

以前二人で行った美術館をもう一度二人で観たり、レストランで食事をしたり…


真古都さんは久しぶりのお出掛けに、凄く楽しそうだ。


ずっと…

この笑顔を僕だけのものにしておきたい…


乗船する時も、まるで子どもみたいにはしゃいでる。


「真古都さん、そんなにはしゃいだら転んでしまうよ」


僕は彼女を後ろから抱きしめて嗜めた。


「だって、子どもの時はお出掛けなんてしたことなかったから、一緒に来れて嬉しい」


わたしは数くんの腕にもたれて答えた。


≈≈≈≈≈≈≈≈≈……


まただ…

心の中で…同じ事が思い起こされる…


でも…今は気にならない…



“大丈夫 焦らないで”


あの日、御行くんはメモ用紙にそう書いてくれた。


御行くんの言葉は不思議と信頼出来て…

あの人に任せておけば大丈夫な気がする…

だから今は怖くない…



セーヌ川のクルーズは、前の時よりずっと楽しめた。

数くんも、いつもよりもわたしの傍にいてくれる…


日本人の観光客もたくさん乗っていて、よく話しかけられた。


わたしはその度に

「わたしの自慢の旦那様なんです」

そう答えた…


船上から見える景色も、満喫出来る心のゆとりがあった。


『なんで前に来た時はこんな素敵な夜景を観なかったんだろう…』



船内で出された料理も美味しい…


「数くん 連れて来てくれて有り難う!」


真古都さんが笑顔で僕に話しかける。


僕は椅子から立ち上がると、真古都さんに向かって手を差し出した。


「奥さま…僕と一曲踊ってもらえますか?」


両サイドの窓際は客席になっているが、

中央では、演奏者が色々な音楽を奏でていた。


その周りで老若男女を問わず何組ものカップルが踊っている。


数くんがわたしの手を引いて中央の輪に加わった途端、会場にいるあちこちの女性から溜息交じりに感嘆の声が漏れた…


ばっちり正装した数くんは、本当におとぎ話の王子様だ…


誰よりも綺麗で素敵なひと


「数くん…わたし…男の人とこんなふうに踊ったの…初めてだよ…」


わたしは数くんの腕の中で呟いた…


「ホント? やったね!

それじゃあ僕が最初で最後だからね」


真古都さんがキョトンとした顔で僕を見てる…


「僕なら何度でも踊ってあげるけど、

僕以外の男とはダメだから…」


僕は彼女の背中に回した腕に力を込めて自分に引き寄せ、彼女の唇にキスをする…


またもや周りから男女問わず声が漏れる。


周りを気にすることなくキスをしてくる数くんにわたしもやっと慣れてきた…




素敵な時間はホテルに着いてからも変わらなかった。


湯上がり、ベッドに入る前数くんはシャンパンを開けた。


「真古都さん…乾杯しよう」


数くんがわたしにシャンパンの入ったグラスを渡してくれる。


「僕たちの未来に…」

「わたしたちの未来に…」


「乾杯」

「乾杯」


数くんとわたしの未来…

だって…数くんは…


わたしは泣きそうになるのを我慢して

グラスのシャンパンを一気に飲んだ…


ダメだ…わたしって…

やっぱりお酒弱いな…


「そんな飲み方して…もう酔ったでしょ?

真古都さんてばお酒弱いのに…」


隣で数くんが言う…


「そんな事ないよ もっと飲めるもん…」


少し酔った真古都さんが、躰を近づけて向きになってる。

向きになった真古都さんも可愛いな…


「じゃあ僕が飲ませてあげる」


僕はシャンパンを口に含むと、そのまま彼女の唇に移した…


重ねた唇の奥で、シャンパンが喉を通る音が聞こえる。


「数くんてば…もう…」


真古都さんが頬を赤らめてそっぽを向く…


「真古都さん…最期までずっと僕の傍にいてね」


僕は彼女の躰をベッドに倒すと、懇願するように告げた…


「やだな…数くん…当たり前でしょ…

わたしはずっと数くんの傍にいるよ…」


困惑気味に僕を見つめる真古都さんの目…


「真古都さん…約束して!

何があっても…僕の傍にいてくれるって」


僕は彼女の指に自分の指を強く絡ませた…


「か…数くん…?」


「約束して! 真古都さん!」


僕は尚も強く彼女に懇願する…


「約束する…最期まで…わたしはずっと

貴方の傍にいるよ…」


「絶対だよ…」


「うん…絶対…」


僕の中で彼女は約束してくれる…


「真古都さん…大好きだよ…」


僕は彼女の躰をいつもより強く抱き締め

溢れる想いを注ぎ込んだ…







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