第167話 共同出展
フランスの街並みは綺麗だ。
まさかこの俺が毎月フランスに訪れるなんて思いもしなかった…
最近では、スケッチをする場所でよく会う人も何人かいて、顔見知りになったことで、言葉を交わすようになった人もいる。
「ヤア翔吾」
このロマンスグレーでヒトの良さそうな爺さんとは、ホテルの中庭でスケッチをしてた時声をかけられた。
それ以来、ホテル近くの公園で絵を描いてる時よく俺の絵を見に来る。
「君ハ
出展ハ考エテナイノカ?」
爺さんが訊いて来た。
「俺ハ、俺ノ絵ヲ好キナ人ニ買ッテモラエレバイイ…
出展ヤ公募ハ、メリットモナイ」
俺は自分の絵を描きたい。
何処ぞの偉い先生の傘下に入って、献上金を毟られながら描くなんて真っ平だった。
「ドウカネ翔吾、君ハトテモイイ絵ヲ描ク。一度私ノ画廊デ、他ノ画家タチト共同出展ヲシテミナイカ?」
突然の申し出だった。
しかも、この爺さんが画廊の経営者だったとは…恐れ入った…
道理で…つまらない俺の絵も、毎回よく見に来ていた訳だ…
「少シ考エサセテクレ」
「詳シイコトハ、改メテユックリ話シヲシヨウ…イイ返事ヲ期待シテイルヨ」
先輩に調べてもらったが、俺に声をかけた爺さんは、パリでも大手の美術商を営む会社の会長だと判った。
「この会長、将来有望な画家を自分でスカウトしてるって噂、本当だったんだな」
先輩が爺さんのプロフィールを見ながら感心したように頷いている。
俺は考えていた…
爺さんが提案してきたのは俺の絵に対するフランスでの独占販売だ…
元々海外での出展など考えていなかったから契約自体は構わなかった…
しかし、大手の業者が絡む展示販売となれば霧嶋の目に留まる可能性もある。
真古都にも…
「瀬戸、これは良いチャンスだと思う。
画家としてのお前にもプラスになるし、
あの男に、お前が近くまで来ていることをアピールする事が出来る。」
先輩が言ってくれた。
実は俺も同じ事を考えていた。
日本での販売方法はこれまで通りだし…
ここは打って出るか…
俺は爺さんにこちらの意向を伝え、取引の契約を進めることにした。
俺の方の窓口は、変わらず公言社が引き受けてくれることになった。
こう云うところは先輩と、先輩の雑誌社に感謝だ。
出展先の会場でレイアウトするのは、
個展の時と同様、柏崎が頼まれてくれた。
若手で無名な俺の海外出展での売上など、最初から期待はしていないが、良い宣伝にはなる。
何処で聞きつけたのか、俺が海外出展するとあって、他の企業からも幾つかオファーをもらった。
だが信頼関係のないヤツと仕事をするのは御免だ…
公言社は小さな雑誌社だが、その分融通も利くし、何より細かいところまで気を配ってくれるのが有り難い。
気難しいこの俺と、臆せず対等に付き合ってくれるのも嬉しい限りだ。
真古都…待っていてくれ…
俺は必ずお前を迎えに行くから!
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