第165話 幸せの青い鳥 前篇

「真古都さん 大好き」

僕は真古都さんにキスをする…


病院の医者には、長生きしたければ仕事を辞めて静かに暮らせと言われた…


自分の躰の具合から、残り時間が然程長くない事は自覚してるので、今回ばかりは医者の忠告を素直に聞くことにした。


口に出しては言わないけど、真古都さんもそれを解ってるからか、花屋は週末しか開けなくなった。


週末は母さんも家にいるから、何かあっても僕ひとりじゃない…


僕はベッドにいる時間も長くなったけど、同じ部屋に真古都さんも数真もいるから不思議と心地よかった。



「数真くん…お父さん休んでるから向こうで遊ぼう」


わたしは隣の部屋に数真くんを連れて行こうと手を伸ばす。


「やーっ!」


数真くんが思い切りわたしの手を叩いた。


「しー…しー…」


数真は本当に数くんが大好きで…お散歩以外は傍を離れようとはしない。


今も、静かにするからここに居ると主張している…


「判ったよ、数真くん。お母さんとここに居よう」


そう言ってから手を伸ばすと、ニコニコしながらわたしに抱っこされる。


数くんが休んでる間、わたしも数真くんを抱えて揺り椅子で寛ぐことにする。



揺り椅子が気持ちよくて少しウトウトしてたみたいだ…

数真くんはわたしの胸の上で手遊びを夢中でしている。


「数真くん…なんかこう云うのいいね」


わたしは数真くんの頭を撫でながら独り言を言った。


「数くんと…わたしと…数真くん…

こんな静かな時間…嬉しいね…

数くんが旦那様で良かった…」



目が覚めると、真古都さんは数真を抱えたまま揺り椅子で眠っていた。


『真古都さん…可愛いな…』


少しすると目が覚めたらしい。

抱えてる数真相手に独り言を言い出した。


「数くんが旦那様で良かった…」


真古都さんからそんな言葉を貰えるなんて思ってもみなかった…


「数真くん…あなたのお父さんはわたしたちをいつも凄く大事にしてくれる

とっても素敵なひとなんだよ…

覚えておいてね」


「おあ…いー…ん…ばん…」


「そうそう…1番だよ、数真くんのお父さんはいつでも1番だからね」


1番なんてどこで覚えたのかな?

でもそんな数真くんが凄く可愛い…



二人のやり取りを僕は嗚咽を堪えて訊いていた。


「そろそろ数くんも起きるから、お母さんお茶の用意してくるね。数真くん静かに遊んでてよ」


「あう…うう~」


真古都さんの足音がパタパタと聞こえる。


ああ…大好きな真古都さん…

誰よりも…誰よりも…愛しい…

君と結婚して良かった…

数真が生まれてくれて良かった…



「数真…おいで…」


数真は僕が呼ぶと一目散に近づいて来る。

歩けるようになったとはいっても、

まだハイハイの方が早いみたいだ。


僕はベッドに座ったまま抱き上げた。


「とーたんっ いーばん…」


数真が僕の顔を叩きながら言ってくれる。


「はいはい…有り難う…」


数真は満足そうな顔を見せる…


「あっ…数くん、目が覚めた?」


真古都さんがお茶とお菓子を乗せたトレーを運んでくる。


僕は数真を抱いたまま彼女の傍に行った。


「真古都さん…大好き」


真古都さんも僕に躰を寄せてくれ、二人でキスを交わす…


「あう…うう~」


僕が真古都さんから顔を離すと、数真がいきなり手を伸ばして彼女に抱っこをねだっている…


「どうしたの?数真くん珍しいね…」


数真の不思議な様子を見てる僕たちに構わず、数真は真古都さんの顔に近づいて行く。


「あ~ あこ…しゃん…しゅき…」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!



数真くんがちっちゃな顔を近づけてキスをしてくれる…






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