第161話 捲土重来

 真古都の淹れてくれた紅茶が飲めなかったのは残念だったが、別の意味で今の様子が見れたのは良かった…


霧嶋のヤツ…

最後に会った時より大分やつれたか…


でも…あの様子だと真古都と子どもの事は大事にしてるみたいだ…


あの…苦渋の選択をした夜以来か…

少しやつれたとは云え、

相変わらず無駄に良い顔だ…


あれだけ綺麗な顔をしてれば女に困りはしないのに…

寄ってくる女を適当に相手して遊べる男なら良かったのにな…


所詮、顔や金目当てに近づいてくる女なんてロクなヤツじゃない…


真古都を選んだのは褒めてやりたいが

アイツは元々俺の女だ…

悪いがいつまでもお前の傍には置いておかない。


真古都を早く以前のように戻してやりたい…


お前は真古都をフランスに連れて来て

安心してるかもしれない…


現に先輩が出張で偶然出会わなければ、

今もアイツの行方は判らなかった…


だが…

月の女神は俺を見棄てなかったらしい…


真古都の居場所が判った今、

彼女を取り戻す準備をさせてもらう…


今のうちに、真古都との幸せな生活を

享受すればいい…


それが…俺がお前にかける最期の情けだ…


霧嶋…

お前は俺から真古都を奪ったつもりだろうが1つ誤算がある…


真古都は簡単に心変わりするヤツじゃない…


アイツは、男の方がいつか他に女をつくり、自分は捨てられると思っている。


その寂しさを解ってるから…

バカみたいに相手を思い続けて、自分からは決して心変わりはしないんだ…


辛い現実に未来を諦めただけで

心までは変わっていない!


彼女と共に歩んでいくのはお前じゃない…

一緒に子どもを育て、

愛情を傾け合うのは俺なんだ…


あの日の出来事で、先輩に言わなかった事がひとつある…


パニックになり…不安定な心で…

それでも俺の名を呼び…

好きだと告げてくれた…


目の前にいる俺を認識していない…

別なところにある心が話している…


頭では解ってる…

でも…気持ちが抑えられなかった…


今は霧嶋の下にいると理解していても

現実の俺に話してる訳じゃなくても


目の前の真古都が俺を好きだと言った…


それだけで愛しさが止まらず

無抵抗な彼女を強く抱き締め

俺の名を呼ぶ唇へキスをした…


何度も…何度も…




御行くんがくれた花はドライフラワーか、

押し花にして大切に取ってある…


最初は偶然かと思ったけど、

この間旦那様がいた時…

迷わずに8本のガーベラを選んでくれた…


“あなたの心遣いに感謝します”


御行くんは花言葉を知っていて

いつもわたしにお花を渡してくれてたんだ…


この間貰ったのはコスモスの押し花…


コスモスの花言葉は【真心】


何だか謹厳実直な御行くんらしいな…


………

謹厳実直……


わたしは同じ様なひとを知ってる…

寡黙だけど…誰よりも優しいひと


だけど…思い出せない…

何か大切なことを忘れてる気がする…


思い出そうと頑張っても

オブラートに包まれたものみたいに

不鮮明な何かが浮かぶだけで

はっきりしない…


最近は特にそんな事が多くなった…


それが何か知りたくて…

オブラートを破り捨てたいのに…


そうすることが堪らなく怖い…


御行くん…どうしたらいいの?


誰か…わたしを助けて…


あの…優しいキスが欲しい…

あのキスはわたしに安心を与えてくれる…


わたしはそのひとを思い出したいのに…


思い出したらいけないひとなんだろうか…








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る