第154話 再会

 クリスマスは去年同様家族で過ごした。

プレゼントの交換では、

数くんにはセーターを

お義母さんにはカーディガンを贈った。


二人共わたしの手編みなのに喜んでくれる。

それがわたしにはとても嬉しかった…


今年も無事…クリスマスも、新年も、

数くんと迎えられた幸せを感謝する…




冬場、花屋の仕事は大変だ…

素手での水仕事が多いから…


それでも花屋の仕事はわたしには楽しい…


寒がりのわたしには、日本の北海道と同じくらい寒いフランスは辛い…


当然、それまで店の外に並んでいた花束は、硝子張りのショーウィンドウの、外からよく見えるところに移した。


フランスの冬は長くて厳しいし、天気も良くない…

花は気持ちを癒やしてくれたり、気分をあげてくれたりするので、よく買い求めてもらえるのが有り難い。


わたしは外の作業が終わって、暖かい店内へ戻るとひと息ついた…


カップに紅茶を入れる…


チリンチリン…

入口のドアが開く音だ…

わたしは飲みかけの紅茶をそのままにして

店内へ顔を出す。


お客さんは男の人だ…

だけど、いつものようにドキドキしない…


長い黒髪を後ろで束ね

サングラスに無精髭…

体格の凄く良い人で

スーツにロングコートの姿が

よく似合ってる…

…と云っても、顔…殆ど判んないんだけど…


不思議なひとだ…


男の人なのに…

初めて会った時、手を掴まれても

他のひとに感じる気持ち悪さが

このひとからは感じなかった…


わたしを認めると丁寧にお辞儀してくれる…


「いらっしゃい! 御行くん!」


わたしは彼に近づいて挨拶する。


「先輩からお手紙で聞いてるよ。

御行くん、お仕事終わって日本に帰る前に、お花を買いに寄ってくれるって!」


わたしの問い掛けに、彼はまた頭を下げてくれる…


どうしてなんだろう…

このひとの事よく知らないのに…

側に行っても違和感が無い…


「御行くん、お花選んでて

わたしお茶淹れてくるから…」


わたしは彼に自分が淹れたお茶を

飲んでもらいたかった…

何故かは判らない…


カップに紅茶を注ぐと、

店内で花を選んでる彼に持って行く…


「外、寒かったでしょう?

お茶…飲む時間くらいあるよね?」


店内の一角に椅子とテーブルがある…

彼は頭を軽く下げると、椅子に座って

わたしの淹れた紅茶を飲んでくれる


わたしは向かい側に座った


「あの…クリスマスプレゼント有り難う…

先輩がくれたプレゼントに、同梱してあったよ」


わたしは後ろで束ねてる髪を見せる。


「お返しなんて…

気にしなくても良かったのに…

でも、嬉しかった!凄く気に入ってるの!」



真古都が俺にお茶を勧めてくれた…

彼女が淹れたお茶を飲めるなんて思わなかったから嬉しかった…


真古都が自分の結んだ髪を見せてくれる。

髪に巻かれてるのは俺が贈ったシュシュ…


あれは一枚の布に染料を使って

花の絵を描いた後で作った…


花は向日葵…

40本の向日葵があのシュシュに描いてある。


俺は紅茶を飲み終わると、花を選んで

代金を支払った。


買った花の中から、花が5本ついてる

ピンクのカーネーションを真古都に渡す…


名残惜しいが、荷物と花束を持って、

真古都に頭を下げ、店を出る…


歩き出した俺に後ろから声がする。


真古都が店から出てくれていた。

手には先程渡したカーネーションが握られている。


「御行くん!

わたしも…忘れないから…また来てね」

そう言って手を振ってくれた…




また逢いたい…

何故かわたしはそう思った

だから帰って行く彼に声をかけてしまった…


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