第153話 初めての個展

 あの後俺はメチャクチャ先輩に怒られた…


「お前、いきなり寿命が縮まる様なマネやめろよ!」


「すいません…」


先輩は呆れて頭を抱えているが、俺の方は気分が高揚していた。


久しぶりに触れた真古都の手…

柔らかな温もり…

俺は幸せで胸が苦しかった…


そして…

何よりも思いがけないプレゼントを

真古都から貰った…


俺の…髪に今巻かれてるシュシュ…

グリーンの綿レースで作ってある…


緑は…俺が好きな色だった…


「全くっ! 幸せそうな顔しやがって!

行きと帰りじゃ大違いだ!」


正にその通りで、

幸せで胸がいっぱいな今の俺には

先輩の野次さえ嬉しく聴こえる…




日本に帰ってからは個展に向けて色々忙しかったが苦にならなかった。


今回の個展は学生時代からの親友である

柏崎がプロデュースしてくれていた。


あいつはスポーツライターをしながら、

イベントのプロデュースをするなど多才な面を持っている。


雑誌等への広告や宣伝は先輩の勤め先

公現社が色々と力を尽くしてくれていた。


会場入口を入って直ぐのところへ受付を置いたので、その壁に真古都のリースを飾った。


黄色のクラスペディアを使った真古都のリースは会場の壁によく映えた。


黄色い球状のクラスペディアの花は、

月に見立てた真古都を思わせる。 



3日間の開催期間中、来場者数は俺が思ってたよりも格段に多かった…


版画の売れ行きも良かったし、ポストカード等の小物は完売した。


これには先輩も柏崎もビックリしている。


受付には絵の依頼も何件かきていて

面会を求める依頼者もいた。


俺は引き受けると決めるまで相手方には会わないので、依頼の申込みは公現社で受けてもらった。


そんな中、俺が気になったのは

この3日間毎日来てるヤツがいる…


朝から来て俺の絵を模写している


俺は少し興味がわき、

最終日に近くへ行ってみた。


確かに模写した絵は上手かった。


「なんで模写なんかしてるんだ?」

俺は訊いてみた。


「な…何でって…

この先生の絵が好きだからだよ!

俺もこの先生みたいに

絵が上手くなりたいんだ!」


「お前幾つだ?」

「15だよ! アンタには関係無いだろ!」


「まあ、絵が上手くなりたいだけなら模写も悪くないからな」


俺はその場から離れようと歩き出した。


「俺に画家は無理だって言うのか?」


小僧が吠え立ててる。


「画家になりたければ模写は止めて

自分の絵を描け…上手い下手じゃない…

自分の絵を描くんだ…」


多分、真古都に逢えて気分が良かったから、

こんな小僧に話しかけたのかも知れない…


俺はまた受付近くのベンチに座った。


「なんでお前みたいな男にそんな事言われなくちゃいけないんだよ!

俺は俺より上手いヤツの言葉しか信用しない!」


小僧が俺のところまで来て噛みついてる

あぁーあ…

絵描きアルアルだな…


俺が笑いそうになるのを我慢してると

先輩がやって来た。


「おい、瀬戸!

絵の依頼が結構来てるから

目ぐらい通しとけ!」


「おう…」


小僧の方を見ると、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしてる。


「あ…あの…俺…いや…僕…知らなくて…」


俺は小僧の持っていたスケッチブックを取り上げると、受付横の売店から新しいスケッチブックを持ってきて、裏にメッセージと俺のサインを入れた。


「まあ、そう云う事だ…自分の絵を描け」


俺はサインを入れたスケッチブックを小僧に渡して先輩のところへ行った。


「なんだ…知り合いか?」


「まあな…」














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