第151話 星空のメッセージ
俺は…恥じる風もなく先輩の前で泣いた…
「いいのか瀬戸…」 先輩が俺に訊く。
「約束の一年が過ぎても帰って来なくて…
行方の判らない真古都にやっと逢えた…
今の状態で一人になった時、あのままで子どもなんて育てていける訳がないんだ…
俺が…どんな事をしてもアイツを支える!」
俺は思いの丈を先輩に告げた。
自分の大事な真古都があんな状態なのに
彼女を忘れて新しい人生を作る選択なんて
俺には到底考えられない…
「先輩…現実と虚構を彷徨ってるって…」
俺は彼女の状態を詳しく訊きたかった。
「それは…」
先輩が重い口を開いて教えてくれた。
自分の意志と関係なく霧嶋に抱かれて
部屋から出してもらえない生活が
4ヶ月も続いた…
その間に起こる自分の躰の変化
この現実に彼女は耐えられなかった…
「こんなの嘘だ! 自分は夢を見てるんだ」
そう思う自分…
「こんな事になってごめんなさい」
現実を悔いる自分…
「4ヶ月間…彼女はずっと毛布に包まり自分を責めたそうだ…」
先輩が辛そうな顔をみせる…
「世の中には…別れたらまた次の彼氏と…
何人もの男を渡り歩く女もいるのにな…
なのに…あいつは…
たった一人の男に献身と忠誠を誓ってる…」
「献身と…忠誠…?」
それは…俺が…学生時代に告げた
理想の彼女に求める条件だった…
「自分には…彼女として誇れるところが何も無いから…せめて、献身と忠誠だけは示したかったそうだ…」
それをいともあっさりと自分の不注意で破られる事になってしまった…
現実の自分を守るため
犠牲になる自分がいる…
辛い記憶に纏わる事は全て
もう一人の自分が引き受ける…
そうやって…精神のバランスをとりながら
現実を生きている…
「真古都は…先輩の事をお父さんって…」
俺はもう一つ気になっていた事を訊いた。
「瀬戸…お前、あいつの父親について何か聞いているか?」
思いもかけない質問だった…
「いや…真古都からも 母親からも…
聞いたことがない…」
「あいつは…婚外子なんだよ…」
婚外子…真古都の母親は結婚せずにアイツを産んだのか…?
「母親は、あいつを身ごもった後で、相手の男に複数の女性がいる事を知ったそうだ…」
父親については、真古都も母親もその事には触れなかったから初耳だった…
「男とは直ぐに別れてあいつを産んだんだが、小学校に上がって間もなくの頃、他の女を連れて何度も家に来たらしい…」
先輩の口惜しい気持ちが口調から判る…
「父親のくせに! なんて男だ!」
俺も思わず怒鳴り声をあげる。
「その男が
最後の別れ際
あいつに言ったそうだ…
“お前も母親と同じで可愛げがないから男が出来ても直ぐ捨てられるだろう” と…」
なっ!
なんて事を自分の子どもに向かって…
アイツの…極度に男が苦手なのは…まさか…
男が…
何れ自分からいなくなると
信じて疑わず思っているのも…
くそっ!
幼かった真古都には何のことが判らなくても、その呪文は成長と共に彼女に絡み付いて別の形で縛り付けていったんだ…
「初めてあの場所で黙って話を聞いた時…
“お父さんて…先輩みたいに優しいのかな…わたしのお父さんも先輩みたいだったら良かったのに…”
そう言って父親の話を教えてくれたよ…
それからだ…あの場所で逢うと
俺をお父さんと呼ぶ…」
悔しい思いで先輩は歯噛みする…
「他で逢うと先輩なのにな…」
少し寂しげな表情…
真古都への無償の愛情…
俺は…真古都に対する先輩の気持ちに
気づかないフリをした…
俺だって…アイツを想う気持ちは
絶対先輩には負けてない…
星空を眺め真古都の名を呼ぶ…
お前も…
俺の名を呟いてくれているだろうか…
必ず笑って逢える日が来る!
俺は負けない!
だから…お前も信じていてくれ!
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