第149話 扉を開けて

 俺は真古都のいるフランスへ行く…


先輩と空港へ行く前に、依頼された絵を保育園に納品するため立ち寄っている。


「まあ、素晴らしい!」


太陽の下で遊ぶ子どもたち…

園長はひと目見て気に入ってくれたらしい。


「それと…一ヶ月の間、我が儘を聞いてくださり、こちらへ通わせていただいた事への細やかな気持ちです。こちらを寄贈させてください」


そう言って、先程の絵よりも二回りほど小さい作品を出した。


手を伸ばす赤ん坊の絵だ。


「こんな素晴らしいものを…有り難うございます!」


「こちらこそ良い経験をさせていただきました。有り難うございます。」





俺は保育園の外で、瀬戸が用を済ませるのを待っていた。

遂に、あいつのところへ瀬戸を連れて行く事になった…


まだ会わせる訳にはいかないと、前回は俺一人で行ったが…

居場所が判っているのに、これ以上瀬戸を待たせておくには限界だった…


今の三ツ木を見て瀬戸はどう思うだろうか…


失望か…

諦めか…


変わらぬ愛情か…



瀬戸を待っていると、園庭から人が来る。

この間の保育士だ。

そわそわと、誰かを待っているのが判る。


「瀬戸に用があるのか?」

俺はその女に近づいて声をかけた。


女は俺を見ると、途端に表情をかえた…

「わたし…どうしても先生が諦められないんです」

しおらしく話す女に笑いが出そうだった…「ご友人ですか?先生にとりなしてもらえませんか?」

上目遣いで、俺を見つめる…

今までどれだけの男にそうやっておねだりしてきたんだか…


「あんたが瀬戸を懐柔してくれたら…少しは肩の荷が軽くなったんだが…

あんたじゃ瀬戸は落とせないな…諦めろ」


女の表情が変わる。

「あんなにいい人諦められません」


「瀬戸がいい人だって? 見立て違いだな…アイツがいい人なのは彼女に対してだけだ…

それに…いい人じゃなく

条件のいい人の間違いだろ」

俺は女の言い分に鼻で笑って答えた。


見透かされバツの悪い顔になる。

「なら彼女になるからいいわよ!」


女が向きになった…

可哀想に…今日の瀬戸はフランス行きで気が立ってるからただじゃ済まないぞ…

あのまま諦めてれば良かったのに…


門から出て来た瀬戸へ、即座に近づき甘い声を出しながら擦り寄って行く…

思った通り、彼女の手が瀬戸に触れた途端、思いっきり振り払われた。


「汚い手で触るな…俺はそう云うのが一番嫌いなんだ! このクソ女!」


女が目を丸くして驚いてる。

人が変わったような瀬戸を見て、信じられない顔で言葉も出ない…


だから見立て違いだと言ったんだ…

元来…瀬戸はこっちがなんだから…


「先輩、行きましょう! 時間の無駄だ!

全く、反吐が出る!」


やれやれ…ただでさえ気が立ってるのに…

輪を掛けて機嫌が悪くなりやがった…


ホント、どうしてこうなんだろうねえ…

女なんか適当にあしらっときゃいいのに…


「もう少し穏やかに断れないのか?」

無理だと思いながら声をかけた。


「ああ云うのは、はっきり言った方が良いんですよ…どうせ知り合いになれたのをいいことに取り入るつもりなんですから!」


全く…他人に対して容赦の無い男だ…


まあ、こんなヤツでも可愛いところがあるんだよね…




「先輩! ちょっと待ってくださいよ!

俺、飛行機初めてなんですから!」


搭乗するまで大騒ぎだった…

しかし…

英語は日常会話程度とか言っときながら…

あれだけ流暢に話せれば大したもんだろ…


何にせよ…


瀬戸は彼女へ繋がる扉を開ける事になった…









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