第148話 思い出の更新

 月に一度、僕と真古都さんは外食をする。


「大丈夫、今月も異常無しだ」

躰の中に、時限爆弾を抱えてるのと一緒…

爆発すれば僕の寿命もそれでおしまい…


毎月の検診で異常無しなら、その夜は真古都さんと食事に行き、二人だけの夜を過ごす。

何時どうなるか判らないから、一つでも多く彼女との思い出をつくるため…


「良かったね 数くん!」

先生の言葉に、真古都さんが腕を絡ませて喜んでくれる。


「相変わらず仲が良いね。

神様もそんな君たちを引き離すのは忍びないとみえる…だが、くれぐれも無理はしないようにね」

毎月言われる医者からの忠告だ…



「真古都さん…今日は買ってあげたい物があるんだ」


数くんがわたしに買ってくれたのはシンプルなデザインのネックレス…


「このデザインならずっとつけていてもらえるから…」


「でも数くん…これちょっと高過ぎない?」

わたしは心配になって訊いた。


「いいんだ…してあげられるうちに、君には何でもしてあげたい…」


真古都さんは頬を染めて笑顔を向けてくれた。

それに…高価な宝石も、ブランド物も、真古都さんは一向に興味を示さない…


今回のネックレスみたいに、古代遺跡の欠片みたいな変わった形の物が好みだ…

僕はそんなところも大好きだけど…

お陰で気に入りそうなデザインの物を見つけるのに苦労したよ…


「あ…わたしこう云うの好きかな…

なんか、いいよね…」


品物を見た瞬間真古都さんが言った一言で

『やっぱり』と思ったよ…


その後はいつも行くホテルのレストランで食事をして泊まる… 


客室のバルコニーから星空が綺麗だ…


「数くん見て…綺麗だよ」


検査の結果が出て安心するのか、真古都さんはいつも以上に

飲んで…

酔って…

「良かったね数くん」を繰り返す…



「星…凄く綺麗…」

真古都さんは空を見上げながら呟く…


「…………」

「どうしたの?」


僕は黙って見上げている彼女に訊いた…


「なんか…前にも誰かと星空を見たような…」

真古都さんが何かを思い出そうとしているので、僕はすかさず彼女を抱き締めて言う…


「やだな…僕とお出掛けした時見たでしょ? 酷いな…忘れるなんて…」

そして、少し大袈裟に拗ねてみせる…


「ごめん…ごめん…怒らないで…」

真古都さんが僕にしがみついて謝っている…


可愛いな…


君の…大事な記憶は…

みんな僕に書き換えて更新して…


「おいで…」


僕は真古都さんをベッドに誘う…


そして…

酔って朦朧とする彼女に

繰り返し言い含めて憶えさせる…


出来事の ひとつ ひとつ…

微妙に言い回しを変えて

君も僕を好きだったように…


真古都さん自身に憶えさせていく…




 

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