第143話 向日葵
「有り難うございました!」
真古都さんの明るい声が響いてくる。
“約束の月”に、彼女は自分と数真の国籍を訊いて来たから、僕は
だから彼女は
言葉も、いずれ日本に帰るからと挨拶程度だったのが、これからずっと生きて行く場所だと決めてからは頑張っておぼえてるようだ。
“約束”については一切話が出なかった。
真古都さんの、そんな前向きなところが僕は大好きだ。
花屋も大分一人でやれるようになってきた。
店の奥で、サークルの中にいる数真を見ながら仕事をしている僕が、出ていく事は滅多に無くなった。
相変わらず男性のお客さんには四苦八苦してるみたいだけど、それは…そのままでもいいかな。
真古都さんが男の人を苦手で無くなったら、僕の方が心配で仕方無いからね。
「さあ、数真…ミルクの時間だよ」
「あ〜っ」
抱き上げる僕に向ける顔が何とも言えない…
数真はよくミルクを飲んでくれる。
離乳食も与えたものを好き嫌いなく口に入れてくれる。
丈夫な子に育って欲しい…
「あ〜ぁ」
数真が僕の指を口に入れだした。
「こらこら…お父さんの指はおしゃぶりじゃないよ…」
数真の視線が名残惜しそうだ…
僕は数真の口におしゃぶりを入れる。
「……?」
「お待たせ…あ〜、数真くん寝ちゃうね…」
わたしはウトウトしてる数真を見て言った。
「お腹いっぱいになったからね…
僕たちも食べようか」
数くんがミルク瓶を片付けながら笑ってる。
数真が産まれてから、数くんは何でもしてくれる。
オムツ替えも嫌がったりしない。
王子様みたいな数くんを、
“素敵な旦那様ね”ってよく言われるけど、
数真のいいお父さんでいてくれることが何よりもわたしには嬉しい。
わたしは…父親には恵まれなかったから…
夕食のテーブルにお店で残った花を飾る。
今日はお義母さんも早く帰れたから賑やかな夕食だった。
「数くん! 数くん!」
真古都さんが子ども部屋から大騒ぎで走って出て来た。
「どうしたの? 数真に何かあった?」
僕は慌てている真古都さんにゆっくり話しかけた。
「か…数真が…病気だよ…口の中に…何か出来てる」
真古都さんは今にも泣きそうだ。
「数くんお願い…一緒に見て…」
僕の腕を引っ張る真古都さんと子ども部屋に向かったが、僕には思い当たるフシがあった。
数真の小さな口の中を注意深く見る。
『やっぱり…』
「数くん…数くん…」
オロオロする真古都さんに教えてあげる…
「大丈夫…歯が生えてくるんだよ」
「えっ?」
昼間、数真は僕の指をかじろうとしてた。
きっとむず痒かったんだな…
恥ずかしそうに俯く真古都さんが可愛い…
一緒に寝室へ行くと、部屋の横にある出窓に向日葵が飾ってあった…
11本…僕は嬉しかった…
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