第139話 仮初の日々
わたしは、街へ向かう街道の脇で花屋の出店をさせてもらえる事になった。
最初から束になってるのを買ってもらうだけだから、お金のやり取りだけで済むので、わたしにも何とかなりそう…
わたしも、数真も国籍はもう
日本に帰っても外国人扱いになる…
だったら
わたしは数真の母親なんだ…
大変でも、逃げてばかりはいられない…
数くんがいなくなっても…
わたしが数真を育てていかなきゃならない…
食べていくにはお金を稼がないと…
そう思ってたのに…
もう…なんで
わたしは男のお客さんが来る度に四苦八苦している…
しかもやたらスキンシップ多すぎだよ…
数くんも一緒にいるけど、本当に大変な時のサポートだから、基本は自分一人でやる…
数くんは、男のお客さんが来て右往左往するわたしを見ては笑ってる…
「もう〜っ こっちの
「何言ってるの、ここは恋愛大国フランスだよ?これくらいでびっくりしてたら大変だよ」
フランス人は恋愛にかける情熱がそもそも日本人とはまるで違う…
日本人の夫婦で、子供が出来たらお互いを名前でなく
“お父さん” “お母さん” と呼び合う事は珍しくない…
「お母さん着替えだして」とか…
「お父さんそんな所で寝ないで」とか…
だけど
熟年の夫婦でさえ、毎日愛を囁き、
抱擁とキスを繰り返してる…
どれだけ自分が相手を想っているか、いつも伝えあっている…
ところが、それだけ愛を囁いていながら、愛が冷めた途端、次の日には別の人の元へ行ってしまうこともよくある事だそうで…
良く言えば自分の気持ちに正直な国民だ…
高校の頃、霧嶋くんが人目も憚らず抱きついたり、頬にキスしてくるのに驚いてたけど、
そんな事、
霧嶋くんから夫婦なのにキスもしないなんて周りが心配するよって言われたのも、確かに頷ける…
真古都さんは
その姿を見るのは嬉しい…
本当はそんなに頑張らなくても、
君と数真が生活していくのに困らないくらいは残してあげられるのに…
でも…
君がいて…数真がいて…
何気ない毎日の生活が
今の僕には何にも代え難い幸せだ…
変わらない日常が
こんなにも大切に思えてくる…
だからこそ…
この幸せがもうすぐ終わってしまう事に
どれだけ口惜しいと思っているか…
僕は
君と一緒になって
初めて死にたくないと思った…
一心不乱にミルクを飲む顔…
この世の終わりのように泣く顔…
全ての幸せを集めたみたいに笑う顔…
実際にこの手で抱いてしまったら
しまい込んだ気持ちが溢れ出す…
歩くところが見たい…
走ってる姿が見たい…
何より…
「お父さん」と呼ぶ声が聞きたい…
どんなに足掻いても
どうにもならない現実…
この幸せを知ってしまったから…
それを失う事が…
怖くて…
辛くて…
悲しくて…
どうしようもなく心残りで悔しい…
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