第137話 〜三日月が突き刺さる

 桜の花もそろそろ終わりだ…

初めて真古都に会ったのは入部届を出しに行った日だったな…


俺の後ろから教室に入って来て、隅の方に座っていた…


目が合うと直ぐ俯いて…

なかなか俺の顔を、マトモに見ようとしないヤツだった…


何となくアナグマみたいなヤツだなって…

俺は…

あの時からお前が気になっていたのかも知れない…


真古都は短大を卒業したら、家業の花屋を手伝うと言ってた…


「わたしには…お勤めは無理だから…」

そう言って笑ってた…

人と上手く関わるのが難しいヤツだから…


露月さんの言葉に

「わたしなんか貰ってくれる人いませんから」と、全力で否定してた事があったな…


馬鹿なヤツだよな…

俺が貰ってやるに決まってるのに…


好きなひとの傍に

少しでも長くいられるのが

アイツのささやかな夢だ…


男はそのうち自分から離れて別のひとのところへ行くと信じてるヤツだったから…


俺をそんな男共と一緒にするなよ

俺は…お前のささやかな夢も忘れてないぞ…


お前が帰る場所も 

夢を叶えるところも

俺の腕の中だけだ…


それは…絶対変わらない!

真古都…お前は今何処にいる!?


お前が望むなら

星の彼方にだって迎えに行ってやるのに…

もし躊躇っているのなら

俺が…力づくでもお前を攫ってやる…


今度こそ…お前を奪い返す





僕は一つ不安な事がある…

それはもうすぐ約束の一年が終わる


僕は、真古都さんに何て言おう…



「か…数くん…」

仕事部屋に真古都さんが顔を出した。


「あの…お話しがあるの…今…良いかな?」

少し思い詰めた表情に、僕は焦った…


「う…うん…」

真古都さんは部屋に入ってくると、椅子に座っても何かそわそわしている…


話したいことがあるみたいだけど、上手く切り出せなくて困った顔を見せる…


やっぱりあの…“約束”の話だろうか…


「あの…わたしと数真の事なんだけど…」

真古都さんが重い口を開いて訊いてくる…


「その…こ…国籍はフランスこっちなのかな?」

真古都さんの表情が固くなっていく…


「そ…そうだよ…真古都さんは僕と結婚したから…数真もフランスこっちで産まれてるから…」

僕は、二人の国籍はだと、はっきり言った。


真古都さんは暫く膝に置いた手をモジモジさせていたが、覚悟を決めたような顔で僕の方を見た。


「あのね…わたしお花屋さんをしたいの!」

思ってもみなかった真古都さんからの告白…


「真古都さん…花屋って…」

当然、帰国の話だと思っていたから、逆に驚いた。


「あ…あの…数真も産まれたし…わたしも働かないとって思うんだけど…会社勤めは無理だし…元々短大卒業したらウチの花屋を手伝うつもりだったから…」


真古都さんが自分の気持ちを話してくれる…


「最初から上手く行かないと思うけど…

お花屋さんなら…わたし頑張ってやれると思うの…だから…やらせてください…」


真古都さんにお願いされたのは初めてだな…


「ありがとう…応援するよ」


僕は真古都さんを抱きしめて言った。


花屋をすると云う事は…

こっちで数真を育てる決心をしてくれたんだね…

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