第136話 こんにちわ赤ちゃん

 霧嶋数真きりしまかずま

それがこの子の名前になった。 


霧嶋くんがつけた名前だ。



「僕は…10歳の時病気が発症して…

死から逃れられないと諦めた時…

僕の生きた証が欲しかった…


誰かと恋をして…好きになって…

その人の記憶に残ってくれるなら

産まれてきた事も無駄じゃないと思った…


君に出会えて嬉しかった…

君は僕をいつも

“顔”ではなく

“僕自身”を見てくれた…


でもあの子は僕とは違う…


これからたくさんの未来がある…

僕がこの子に望む事はたった一つだ…

好きな子が出来たら

ずっと傍にいてあげて欲しい


僕には出来なかったことだから… 


君を好きになって本当に良かった…

あの子は、大好きな君と僕の子だから…


僕と君から一字づつ取って

“数真” にしたい…」


霧嶋くんは二人の子だから…

がいいと言ってくれた…

嬉しかった…


初めて病院で妊娠が判った時、

凄く悲しい顔をしていたから、

きっと赤ちゃんなんか

いらないんだと思った…


本当は自分の命が短いから…

残されるわたしと赤ちゃんの事を心配してたんだね…



「ありがとう…

数真が大きくなったら教えてあげるよ。

貴方の名前はがつけたんだよって…」


霧嶋くんは凄く嬉しそうな顔をしてくれた。


「ありがとう真古都さん。

君がいなかったら…

僕は数真には逢えなかった。


大好きな君が…僕を忘れずにいてくれたら

それで満足だったのに…


君は数真を産んでくれた…

僕に数真と逢わせてくれてありがとう!」




僕は幸せだった…

まさか自分の子どもをこの手で抱けるなんて思ってなかったから…


育児は苦にならない。

僕が生きている間は

出来る事は何でもしてあげたかった…


ミルクも

オムツ替えも

入浴も


激しく泣くその声も全て愛おしい…


「こんにちわ 赤ちゃん」


僕が君のお父さんだよ…

僕の代わりに真古都さんを…

お母さんを頼むね…


君はどんなと恋をするんだろう…


お母さんのように

優しくて思いやりのある

ちゃんと見つけてよ


君は男の子だから…

大きくなったらお母さんを助けてあげて

君のお母さんは

意地っ張りで少し頑固な所があるけど

本当は泣き虫で弱い人だから…


辛い時でも笑ってるような

そんな人だから…


僕が真古都さんの傍にいられない代わりに

君がお母さんの傍にいるんだよ


僕は…

我儘で嫉妬やきもちやきだから…


僕がいなくなった後も

真古都さんには

誰とも結婚なんてして欲しくない…


僕以外の男に笑顔を向けてほしくないし…

まして…

他の男が真古都さんに触れるなんて

僕には耐えられない…


変な男が近づいて来たら

大泣きして邪魔をして…

男同士の約束だよ…


君が僕の証なんだ…

僕がちゃんと存在していたと云う証…

真古都さんを好きになって愛したと云う証…


ただ死んで行く筈だった僕の唯一の希望だ…








 





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