第135話 光の未来

 「無事…産まれたのか…良かった」


三ツ木から子どもが無事産まれたと、手紙と一緒に写真が来た。


ひと月早いお産だったが、今は二人共退院して日々育児に悪戦苦闘しているそうだ…


“この子のために、これからのことをしっかり考えようと思います”


これからのこと…

三ツ木はこれからどうするつもりなんだろうか…

遅かれ早かれ、相手の男はいずれ病気で死を迎える…


やっぱりフランスむこうに残るのか?


「相変わらず可愛い顔して笑ってやがる…」

産まれたばかりの子どもを抱いて間抜けな顔して笑ってる三ツ木が愛しかった…


俺はこれからのことを思案にくれながら、三ツ木が子どもと一緒に写っている写真を手帳の一番後ろに挟んだ…




最近の瀬戸は販売用に絵を描いている。

高校時代の友人が、比較的手が出しやすい値段の版画で販売してはと提案したらしい…


「おっ…最近は真面目に描いてるんだな」

キャンバスに向かっている瀬戸に部屋の入口から声をかけた。


「何ですか勝手に開けて!」

瀬戸がむくれた顔を向けてきた。

「ノックもしたし、声もかけたが気付かなかったのはお前だろ…」

「ちっ!」

俺の応えに面白くない顔をして舌打ちすると、またキャンバスに向き始めた。


「それで、今日は何の用です?」

瀬戸がこっちを向かずに質問してきた。


「この間預かった作品の試し刷りが出来たんで確認を頼みたいだ」

そう言って封筒をチラつかせた。


「もうっ! 早く言ってくださいよ!」

瀬戸は俺から封筒をふんだくると、ライトを付けたデスクで試し刷りの絵を確認する。


「お前が版画をするとは思わなかったよ」

絵を見つめながら、細かい所をチェックしている瀬戸に何気なく言ったんだが、ヤツは一気に耳まで赤くなり、確認する手が止まった…


「か…柏崎のヤツが…」

「ああ、お前の同級生な…」


「アイツが…よ…嫁さんをもらうなら…不安定な収入はダメだと言うから…」

瀬戸はバツの悪い顔で所在なげにしている。


「なんだ…結婚したい女が出来たのか?

随分急だな…」

俺は三ツ木の事が不思議に思い訊いてみた。


「そんな女出来る訳ないでしょう!」

今度はいきなり怒り出した…


「アイツが…真古都が…戻ってきたら…

貧乏画家に嫁いで…苦労させる訳いかないから…」

「お前…三ツ木を嫁に貰う気なのか?」

瀬戸の発言に驚いて訊いた。


「当たり前じゃないですか!

……今更って言われるかもしれないが…

その時は…何年かかっても口説いて…

絶対アイツを嫁にする…」


この、馬鹿みたいに一人の女を想い続けてる後輩が可愛く思えた。


「まあ、良いんじゃないか…

一度手離した女を嫁に貰う気でいるんだ…

色々覚悟は必要だと思うがな…」

俺は瀬戸の頭を軽く叩いて言った。


「もうっ! 判ってますよ!」

瀬戸が俺の手を振り払った。


「前にも言ったが、俺はアイツが結婚してたって、子どもがいたって構わないんだ!

アイツ以外の女を嫁に貰う気はサラサラ無い!

どんな状況のアイツでも…

丸ごと受け入れる覚悟はとうに出来てる!」


お前のその覚悟が…現実を目の当たりにして本当に変わらないのか…


現実を知っている俺は…

これ以上言えない…


その時

お前が…どんな選択をしても…

俺が

三ツ木を支える気持ちは変わらない…






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