第131話 思うは君だけ

 「真古都さん、

今日はワイン ダメだからね」

食事が始まる前に霧嶋くんが怖い顔をしてわたしに言った。


「えっ?だってお医者様だって少しはいいって言ったよ…」

わたしはちょっと不貞腐れて答える…


霧嶋くんが長い溜息を吐く…

「真古都さんはで酔って寝ちゃうでしょ…」

身も蓋もない言われ方だ…


「もう! ジュースだって美味しいからいいもん!」 

わたしはむくれてそのままトイレに行った。


どうせわたしはお酒弱いもん!

霧嶋くんが強すぎるんだよ!


「あ、また会ったね」

トイレのパウダールームでまた彼女に出会した。

日本の大学生で、旅行は一人で来ているみたい…


「真古都の御主人、凄いイケメンだよね~

お金持ちだし…一体どこであんな優良物件見つけたの?」


何だかカチンとする…

気安く呼び捨てにしないでよ…


「別に見つけた訳じゃないよ…彼が日本に来てた時…学校の部活が一緒で…いつも親切にしてくれたの…それだけ!」


彼女の態度につい腹が立って、強い口調で言ってしまった。

彼女みたいなタイプは苦手だ…


「ねえ、今日 真古都たちはどこのホテルに泊まるの?わたしも一緒に泊めてくれない?」


信じられない言葉に「わたし知らない!」

と言って出て来てしまった。


トイレから出ると、通路の端で霧嶋くんが待っていてくれる。

もう…過保護だなぁ…

そうは思ったけど、彼女の事があったから霧嶋くんの傍まで行くと腕にしがみついた…


トイレから出てきた彼女が霧嶋くんと目が合う。


「ちょうどよかった。真古都に今夜一緒のホテルで泊めてくれるようにお願いしたの。

よろしくね」

彼女はわたしがいるのも構わず霧嶋くんに擦り寄っていく…


「悪いけど…僕たち新婚なんだ。折角のを邪魔するような無粋な真似やめてくれる?」


霧嶋くんは冷たく言い放つと、わたしの手を引いて自分たちの席に戻って行った。

席に戻っても黙ってるわたしに、霧嶋くんは優しくキスをしてくれる…


「真古都さん、そんな顔しないで…

僕があんなありふれた手口に引っかかる訳ないじゃん」

そう言って抱き締めてくれた。


霧嶋くんは笑ってたけど、きっと彼女に怒ってたんだと思う…

だって…その後の食事で彼が飲んだワインの本数は半端じゃなかったから…


クルージングが終わって下船した時も、彼女は近づいて来たけど、霧嶋くんはわたしにキスをしまくって無視してた…


ホテルに着くまでの車から見た星空が綺麗だった…

空はどこで見ても一緒なんだな…

同じ星空を瀬戸くんあなたも見てる?

わたしは大丈夫だから…

瀬戸くんは…元気で頑張ってね…


ホテルに着いて、わたしがお風呂から出るとルームサービスが届いてる。


霧嶋くんがさっさとシャワーを済ませて出ると、そのシャンパンを開けてくれた。


「もう…どれだけ飲むの?

数くん、いくらお酒強くても飲みすぎだよ…

そんなに飲んでるのに…平気な顔して…

酔ったとこ見てみたい」


霧嶋くんは笑いながらわたしのグラスにシャンパンを注いで、自分のグラスにも入れる。


「真古都さん乾杯しよう」

「いいよ」


「僕たちの赤ちゃんに…」

「うん」


「乾杯」

「乾杯」 




「やっぱり真古都さん、お酒弱いね」

疲れもあって、わたしはグラスを飲み終える前に眠くなって来た…


「数くんが強すぎるんだよ…

あれだけ飲んでるのに…全然酔ってないじゃん…不公平だよ…」

わたしはふらつきながら立ち上がった。

霧嶋くんがベッドまで支えてくれる。


「真古都さん…今日は僕…結構酔ってるんだけど…」

霧嶋くんがわたしを後ろから抱き竦めながら耳元で囁いた…


「いつになったら僕が真古都さんだけって信じてもらえるのかなぁ…」

ライトを消して、薄暗くなったベッドの上で霧嶋くんが所構わずキスをしてくる…


「数くん…?」

霧嶋くんが、わたしの手を取ると指にキスを繰り返してる…

「僕はこんなに…

真古都さんだけなのになぁ…」


「か…数くん…酔ってる?」

恐る恐る訊いてみる…


「だから…酔ってるって言ってるでしょ…」

霧嶋くんは少し微笑むと今度はわたしの髪にキスをする…


「酔ってる証拠…見せてあげるね」




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