第127話 守りたいもの

 三ツ木からクリスマスプレゼントのお返しが手紙と一緒に送られてきた。


“一人じゃないことが、こんなに心強く思ったことはありませんでした。これからも頑張れる勇気が出ました”


その前向きな文章に、少しホッとする。

絵も喜んでもらえて安心した。


そうだ三ツ木!

お前は一人じゃない!

俺がいる!

今度は俺がお前の力になってやる!

だから全てを諦めるな!


俺は三ツ木からの手紙を読みながら、彼女のために出来る事をしてやろうと決心した。


「ところでアイツは何を贈ってくれたんだ?」


包み紙を開けて箱の蓋を開ける。

中を見ると“万年筆”が入っていた…


『アイツ…まさか原稿を手で書いてると思ってないか?』


今時、原稿を手で書くヤツなんかいないぞ…

なんだかアイツらしくて可笑しくなった。



「なんだニヤついて…彼女からのプレゼントか?」

隣のデスクで仕事をしていた先輩から声をかけられる。


「だったら良かったんですがね…残念ながら同じ部活の後輩だったヤツです」

「それにしちゃあ、随分嬉しそうじゃないか?」

先輩が揶揄うように言ってくる。

「嬉しいですよ。コイツはメチャクチャ可愛い俺の一番のお気に入りなんです」

前なら恥ずかしくて言えなかった言葉も、何故か今なら素直に言えた。


「あれ?その写真…」

三ツ木のプレゼントを片付けると、その下からデスクに挟んである写真が見えた。


「今、話題になってる画家の絵だろ?

確か初日早々、買い手がついたって…

ネットで随分騒がれてるよな…」


まさかその買い手がだとは言えない…


「ちょうどいいや、お前コイツのコメント貰って来いよ」

「ええ?」

「誰を行かせようか迷ってたんだが、お前なら歳も近いし何とかなるかもしれないしな」


先輩はそう言うと、主任のところへ話をしに行ってしまった。


瀬戸が今どうしてるのかは、ずっと気になっていた…

奪われた三ツ木のことを、瀬戸アイツがどう思っているのか知りたかった…


結婚した時点で諦めたか…

所詮、高校生の恋愛だ…それも仕方がない…


三ツ木のお腹には相手の子どももいる…

多少未練があっても、それを聞けば気持ちも覚めるかもしれない…

だからといってそれを咎める事は出来ない…


どうやって瀬戸と会おうか困っていたところだ…

公私混合になるが、この機会チャンスをフルに利用してやる。


三ツ木には、あんな辛い想いをしたのだから絶対に幸せになってもらいたい。


その為には、瀬戸の気持ちを知っておく必要があった。

瀬戸が、今の三ツ木を受け入れることが出来るのかどうか…


画家として将来有望とされてるヤツだ…

今更バツイチ、子持ちの女と縒りを戻さなくたって、女なんて好きなだけ選べる筈だからな…


まあ、それならそれで構わない…


瀬戸が三ツ木にもう気持ちが無いのなら…

俺が三ツ木を支えるだけだ…

アイツが自分の足で、

ちゃんと立って歩けるようになるまで

俺が傍で支えてやる…


これが…お前の幸せになる第一歩だ…







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