第126話 辻宮 暉
三ツ木真古都は同じ部活の二年後輩で、同学年の瀬戸翔吾と仲が良かった。
あのまま順調にいけば、瀬戸のご執心ぶりからいって、
まさか予想もしないところから
対抗馬が現れるなんて…
しかも…
あんな尋常じゃないやり方で
三ツ木を攫っていきやがって…!
いくら病魔に侵された身とは云え節度を超えている!
俺は専門学校を卒業した後、知り合いが勤めている雑誌社に入社した。
学生時代、両親がお互いとも不倫を重ねていた上、離婚した現実を目の当たりにした事で、自分だけ真面目に生きてることがバカらしくなった。
片方だけならまだしも、揃いも揃って不倫した挙げ句、どっちも相手が何人もいるだなんてイカれてるとしか思えなかった…
それまで尊敬していた大学教授の父と、教師の母はただの虚像だった…
俺は全てがどうでもよくなった…
女も見境なく誘ったし、
捨てた女が泣こうが
喚こうが気にならなかった。
三ツ木真古都は、同じクラスで部長の春樹がブスだブサイクだと言って揶揄ってたヤツだった…
春樹の前じゃ何をされても、いつも無理して笑ってるが、瀬戸と一緒にいる時は本当に可愛らしく笑ってた…
その幸せそうな顔を泣かせてみたくて誘ったんだが…
呆れるほどのお人好しすぎて、手を出す気がうせた…
卒業まで三ツ木を構う度、瀬戸が真っ赤な顔して向きになるのがおかしかった…
三ツ木は確かに人目を引くような美人じゃないが、春樹のするように罵声や暴言を浴びせる程悪い訳でもなかった。
寧ろ三ツ木はいつも、どんな相手にだって誠実に向き合っている。
俺にとったらこんなに“いい女”は滅多にいないのに…春樹は女を見る目がないな…
そう思うと、瀬戸に渡すのも惜しい気持ちが出てきた…
だが、三ツ木の瀬戸を見つめる眼差しが、その気持ちに蓋をさせた。
三ツ木は自暴自棄になっている俺が立ち直れる切っ掛けをくれた。
こんな俺を応援してくれると言ってくれた…
俺は三ツ木の気持ちに応えるため、専門学校では真面目に勉強した。
その甲斐あって、今の雑誌社にも呼んでもらえた。
宗教画の記事を書く先輩と一緒にフランスへきたが、田舎町の写真を撮りにその日は一人でストラスブールから少し外れた街へ来た。
まさかそこで、あんな状況の三ツ木と再会するとは思ってもみなかった…
言葉も解らない異国の地で、どれほど心細かっただろうか…
俺は相手の男にも、三ツ木を手放した瀬戸にも、どうしようもない程の怒りが湧いてきた。
再会した三ツ木は全てを諦めていた…
自分の意志では無かったにせよ、相手の行為を受け入れてしまい、それによって妊娠してしまったから…
だから相手の男が亡くなった後は一人で生きて行こうとしている…
俺は三ツ木に、一人ではないこと、何か困ったことがあれば、いくらでも力になることを伝えた…
瀬戸翔吾の絵が、1点だけ展示販売されることはウチの雑誌社にも情報が入ってきた。
俺はその絵を、三ツ木に渡してやりたいと思った。
あれだけ慕ってる瀬戸の絵だ…
少しでも心の拠り所になってくれればと思ったらからだ…
50万は痛かったが、三ツ木のためなら惜しくはなかった…
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