第125話 心の中の幸せ

 クリスマスはお義母さんと数くんと3人で美味しいワインを飲み、お料理を食べ、フルーツやケーキも食べた。

3人でプレゼントの交換もした。


お義母さんはいつになく涙もろくなっていて、数くんの病気を知りながら結婚してくれたことをとても感謝された。


残りの時間を2人で幸せに過ごして欲しいと泣かれてしまった…


「お義母さん、わたし幸せですよ。もうすぐ赤ちゃんも産まれて来るんですから」


「真古ちゃんありがとう…」

お義母さんはわたしを優しく抱き締めてさらに涙を流していた。




わたしが今幸せなのは嘘じゃない…


あの日…

辻宮先輩が贈ってくれた絵…

初めはなんで絵なんか贈ってきたんだろうと不思議だったけど、右下に書かれてある作者のサインを見た時、心臓が張り裂けそうになった…


「う…嘘…」

Syou…その後に日付…そして…M……

この…サインの書き方は…

プライベートの絵に入れる時だけ

使うサインだと

以前、瀬戸くんが教えてくれた…


そんな事を思い出しながらも、後から後からしずくが頬を伝わり途切れること無く落ちて行った…


最後の“M”は贈る相手の頭文字…

題名タイトルは…【地上の星】

副題は…“地上の星”は消えたりしない…


漏れる嗚咽が止まらない…

瀬戸くんのわたしを想ってくれる気持ちが堪らなく嬉しかった…


「ごめんなさい…

もう…もう帰れないんだよ…

こんなに大切に想ってもらえてるのに…

わたしは…別のひとの子を…

身ごもってしまったから…

うぅっ…

それでも…それでも…大好きです…

貴方が誰よりも大好きです…」


先輩…ありがとうございます


わたしは絵を贈ってくれた先輩に感謝した…

瀬戸くんの想いが詰まったこの絵と、

お腹の子どもがいたら

この先一人になっても生きて行けます…

この絵があればわたしは幸せです…


その後絵を抱えてむせび泣く声が

暫くの間静かな部屋に聞こえ続けた…




クリスマスが終わると新年を迎えるパーティーに招待された。

わたしは人の集まるパーティーは苦手なので挨拶が済むと、部屋の隅にあるベンチでワインを飲んでる…


お友達も久しぶりに霧嶋くんと逢えて嬉しそう…


〘アノデショ?ナンデアンナノト結婚シチャッタノカシラ…〙

〘ホント…少シ見ナイ間ニ、数祈アンナニ素敵ニナッテルノニ…〙

〘アンナツマラナイ女ナラ、奪ッチャオウカシラ…〙


わたしの方を見て話をしている女の子たち…

言葉は解らなくても絶対悪口だよね…


わたしは何となくここにいる理由が無くなったので、取り分けてきたお料理を食べ、持っていたワインを飲み終わると、体調不良を告げ家に帰ることにした。



僕は真古都さんの好意に甘え、少し彼女の傍を離れた。

折角誘ってくれた友人と話をしたら戻るつもりだった。


暫くすると昔遊んでた女の子たちが来て一緒に飲み始めた。

僕が戻ろうとすると、女の子の一人が抱きついてきた。


「彼女ならとっくに帰ったから大丈夫よ。久しぶりに愉しもう」


僕はその言葉に、彼女を一人にしたことを後悔した。


躰を擦り寄せている女の子を引き剥がすと、そのまま僕は家に帰った。


ベッドルームに入ると、真古都さんは床に服を脱ぎ散らかして眠っている。

僕はそれをかき集めてから彼女の隣に躰を滑り込ませた。


「あ…お帰り」

真古都さんが目を覚ました。


「真古都さん、一人にしてごめんね」

僕は彼女の顔を覗き込むようにして言った。

「なんだ…そんな事…大丈夫だよ

わたしは言葉が解らないから…気にせず楽しんできて…」

僕は堪らなくなって、彼女にキスをしようとしたら、顔に触れた指が何かで濡れた。


「真古都さん…僕が大切なのは君だけだ…」


霧嶋くんがわたしにキスをする…

そのキスが首筋から下へと移っていく…


そんなに気にしなくてもいいのに…

今のわたしは十分幸せなんだから…


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