第124話 【地上の星】はどこに…

 「先生…これで間違いないんですか?」


俺は出来上がった絵を持ってギャラリーへ来ていた。


「当然だ。 

この金額から鐚一文引く気はない。

期間は年内一杯。それで売れなければ引き取りに来る。」

「し…しかし…」

ギャラリーのオーナーは俺が付けた金額に、あからさまに不満な顔を見せた。


「こちらも初めてなので、今回の取引を次回の参考にしたい。ダメなら無理は言わない、このまま持って帰って…」

「あああーっ! 解りました 解りました」

帰ろうとした俺をオーナーが慌てて止めた。


「先生の絵は展示だけでも十分、人が呼べます…このままお預かり致します…」

「よろしく頼みます」



「全く! 若造がふざけおって!」

翔吾が帰ったあと、オーナーはテーブルを叩いて怒りを露わにした。


「今の、最近話題になってる【月光】の作者ですよね。」

隣の席で絵の鑑定をしていた男が声をかけた。


「そうだ! 最初は売るのを渋ってたくせに、イザ持ってくればとんでもない値をつけおった!」

オーナーの怒りは収まらず、絵の入っている箱をバンバン叩いていた。


「一体、彼は自分の絵に幾ら付けたんですか?」

「50万だ!」


その金額に隣の男も驚きを隠せない。


「あの若造め何様だと思ってるんだ!

それとも若手の相場を知らないのか?

12号の絵に50万だぞ?相場の倍以上だ!

いくら評判の画家だといっても、素人に毛が生えたような若造の絵に、誰がこんな金額出すものか!!」


腹立たしいが、万が一売れてくれればめっけ物だ…そう思い、翔吾の絵は派手なポップと一緒にショーウィンドウの目立つところへ飾られる事になった。


ところが店に飾る前日電話が入り、

“売れる筈の無い絵” は、展示前にあっさり買い手がついてしまった…


“瀬戸翔吾の絵” が、展示販売されることはネットでも告知していたので、不思議ではない。


誤算だったのは売買契約が済み、無事に絵を引き渡した後だった。

絵に対する反響が大きく、ネットや電話での問い合わせが後を絶たない…


「なんてことだ…あんな小僧の絵に…」




「瀬戸、お前の絵売れたんだって?」

「らしいな…」


今日は久しぶりに柏崎が来てくれていた。


「確かにお前の絵はいい絵だが、即効で50万の絵を買うなんてどんなヤツなんだろうな」

「ああ…」


俺にとっても誤算だった…

あの絵は別に話題にさえなれば無理に売れなくても良かった。

だからこそ、敢えて50万と云う法外な値をつけたんだ。


「これでまたお前の絵は高くなるな…

次も同じところで描くのか?」

柏崎が呆れた顔で、お茶を飲みながら訊いてきた。


「冗談だろ…二度とギャラリーには出さない」

俺は素っ気なく答えた。


「なんでだ?」

「あんな所に出したら売上の半分は持っていかれる。俺は自分の絵をそんな売り方はしたくない…」


柏崎はそんなシステムに驚いていた。


「なら、次は個展にしろ…

俺がプロデュースしてやるよ!」


突拍子もないことを笑いながらあっさり言い出したが、きっとコイツは本気だろう…



どっちにしても

あの絵は誰が買ったんだろうか…


【地上の星】と名付けた俺の絵…


だれが買っても構わないが、

写真でもネットでもいい…

真古都にひと目だけでも

見てもらいたい…



副題の

ー “地上の星”は消えたりしない ー


俺が今…

お前に一番…

伝えたい言葉だ…








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