第120話 日本をあとに

 「大丈夫? 具合でも悪いの?」

霧嶋くんが心配してくれる。


「だ…大丈夫…日本から出るの初めてだから…ちょっち緊張してるのかも…」


わたしは燻っている想いを悟られないように体調の所為にした。


離陸の時間だ…

窓からの景色が早くなったと思ったら

あっと云う間に地面から離れた…


わたしと霧嶋くんの席は窓側じゃないので、離れた窓から空しか見えない…


離れてしまった距離へ追い打ちをかけるように、今度は日本から遠いフランスに行くことになった…



「何か軽い飲み物でも貰おう…」


霧嶋くんは客室乗務員の女性に何かを頼んでるみたい…


霧嶋くんのなんと流暢なフランス語…


まあ…霧嶋くんにしてみれば母国語だもんね


霧嶋くんはわたしの体調が心配だからと、座席をベッドメイキングしてくれた…

まさか飛行機でベッドに寝れるなんて…

こればかりはお義母さん

ありがとうございます!


折角なのでベッドに横になる…


真古都さんの様子が可怪しいので、ベッドに寝かせた。

少しすると寝息が聞こえ始めた。


眠ってる真古都さんの髪を撫でながら

顔を見つめる…


真古都さん…

そんなに日本を出るの嫌だった?


そうだよね

日本には君の大切な人がいるからね…


君が僕のために

どれだけ時間を使ってくれても

傍にいてくれても


君の心の中を占めて離さないのは

今でもたった一人だ…


だけど…今は僕だけの真古都さんだよ…

僕のことだけを考えて…


フランスに着いたら

君の行きたい所は

何処へでも連れて行ってあげる


子どもを育てるのにもいいところだから…

きっと君も気にいるよ…



わたしの寝顔をみながら、霧嶋くんがそんな事を考えているなんて露程も知らず、

目を覚ました後は彼に促されるまま一緒に食事を摂った。


機内食は凄く美味しくて、パンもふわふわで

つい食べ過ぎてしまった…

ベッド脇にはフルーツやお菓子が置いてあって至れり尽くせりだし…


こんな贅沢をお義母さん

ありがとうございます!


パリの空港に無事到着。

霧嶋くんのおうちはここから鉄道で3時間くらいかかるらしい。


「真古都さん、今日はここで一泊するよ」


空港近くのホテルに今日は泊まるみたいだ。

こんなに大事にしてもらって申し訳ないな…


霧嶋くんがホテルのチェックインをしている間、わたしは座って待ってる。


こっちへ向かって来る途中二人組の女性から話しかけられてる。

随分親しげに話してるけど知り合いかな?


「真古都さんごめんね 待ったでしょう」

「わたしは大丈夫だよ」


霧嶋くんと一緒に部屋へ入る。

ここのホテルも凄く素敵だ…


「それよりさっきの女の人は知り合い?

わたしはお部屋でゆっくりしてるから行ってきていいよ」

わたしは上着を脱いでベッドに座った。


………?

なんか霧嶋くんが変な顔でわたしを見てる。


「真古都さんは僕が他の女の子に誘われても平気なの? 嫉妬やきもちもやいてくれないの?」


わたしの手を握って拗ねた顔で言われる。


「えっ?知り合いなんじゃ…」

「全然違うよ!さっきロビーで初めて会って誘われたんだよ!でも僕はってからね!」


少し不貞腐れて言う霧嶋くんがなんだか凄く可笑しかった。

彼は外国人の中にあっても、遜色ないほど素敵だもの…

女の子から誘われたっておかしくない。


「数くん…断わってくれてありがとう

素敵な旦那様だね 嬉しい」

ちょっとした褒め言葉のつもりだった。


「真古都さんにそんな事言ってもらえて凄く幸せ!」

霧嶋くんはそのままわたしを抱き締めてキスをしてきた。


「か…数くん!」

唇を離すと、彼は真面目な顔を近づけてきた。


「真古都さん…

ここは日本じゃないから…

キスは挨拶みたいなものだよ

まして僕たち夫婦なんだから…

キスもしなかったら周りが心配するでしょ?


だから真古都さんも早く馴れてね」
















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