第117話 寄り添う心

 「数くん…ずっと辛かったね…」


真古都さんは僕の胸の中で、背中をゆっくり擦りながら言ってくれた。


「ずっと…一人で頑張ったんだね…」


真古都さんの優しい言葉が、粉雪のように僕の胸に積もり解けてゆく…


「もう…一人で頑張らないで…」


僕は真古都さんの顔を覗き込む…


「わたしがいるよ…何も出来ないけど…

わたしが数くんの傍にいるよ…」


涙が止まらない…

真古都さんの顔が歪んでも…

それでも涙は止まらなくて…


「ま…真古都さん…」

「うん」

真古都さんの優しい笑顔が愛しい…


「真古都さん…大好き…」

僕は再び彼女の躰を強く抱き締めた…

真古都さんはその間ずっと

僕の背中を擦ってくれた…



1週間後

やっと僕たちの家に真古都さんは帰って来た…


「やっぱりおうちがいいね」


真古都さんが向けてくれた笑顔に僕は幸せな気持ちになる。


「疲れたでしょう? お茶を入れるね」


庭を眺めていた真古都さんに僕は声をかける。


「わたしも手伝うよ」


彼女が足早に近づいて来る。

僕は慌てた。


「走っちゃダメだよ!」


僕は真古都さんの傍に走って行った。


「転んだらどうするの!」 

「もう、ちょっち早く歩いただけじゃん」


拗ねた顔を見せてくれるのも嬉しいけど…


「言いたくないけど…

真古都さん、何でもない所でもよく転ぶんだから…座ってて」


僕が神妙な顔でお願いすると

真古都さんは少し不貞腐れた顔になる

それもまた可愛い…


お湯を沸かして、お茶の用意をしている僕を、真古都さんは座ってじっと見てる。

まるでおやつを待ってる子供みたいだ…




退院してから、二人で一緒に過ごす時間が増えた。

真古都さんは、今までは部屋の中に篭もって一人で過ごしていた時間を、僕の傍にいてくれるようになったから…


僕が仕事をしている時も同じ部屋で本を読んでいる。


真古都さんは21時を過ぎる頃には居眠りを始めるから、僕はその辺りを目処に切り上げる。


「真古都さん…お布団行こう」


眠そうな彼女を部屋まで連れていき着替えを促す。


結婚してから僕たちの寝室は一緒にした。


「真古都さん、着替え終わった?」

「うん…」


パーティションの向こう側で着替えてる真古都さんを覗くと、ちょうど寝巻の紐を結んでるところだった。


一緒にベッドに入ると手を出してくれる。


「数くん…手…」

「うん…」


退院した夜

真古都さんはベッドの中で言ってくれた。


「これからは手を繋いで寝よう」


夜は心細くなるからと手を繫いで寝ることを提案してくれた。


握った手を僕が握り返すと、真古都さんは安心したように眠りにつく…


それまで二人の間にあった僅かな空間が手を繋ぐことで埋められた。


真古都さんが僕の為に少しづつ寄り添ってくれるのが堪らなく嬉しい…


握られた手の温もりがこんなにも僕に幸せと心の安寧をもたらしてくれる。


ずっと…君を離したくない…







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