第115話 失言

 病院では、霧嶋くんとわたしは仲の良い新婚さんだと誰もが思っている。


霧嶋くんがいつも手を引いて、細かいところにも気を遣ってくれているのを、誰もが見て知っているから…


「良いなぁ~ おねぇちゃん、王子様とけっこんできて…」


霧嶋くんのことが大好きな、小児病棟の女の子にふくれっ面で言われたのは少し可笑しかった。


お腹の赤ちゃんも、心臓も、安定していて問題無かったので、検診を兼ねた3日間の入院は今日で無事退院。


荷物の整理も済んだから、後は霧嶋くんが来てくれるのを待つだけだ。


窓から外を眺めると、川辺りには今日も数羽の白鷺が止まっていた。


羽を広げた姿は本当に綺麗だ…

現実のものとは思えない美しさは、まるで神様の御使いのようだ…



『お茶が飲みたいな…』

喉が乾いたけど、水筒も空になっていたのでわたしは売店まで行くことにした。


わたしは冷たい物は飲まないので、霧嶋くんが温かい紅茶を、いつも水筒に入れて持ってきてくれていた。


有り難い…

霧嶋くん…本当はあんなに優しくて

素敵なひとなのにな…


1階の売店で常温のお水を買って、自分の病室へまた戻った。


エレベーターで3階まで上がり、長い廊下を歩いて行く。

途中、物干し場のドアが開いていたので外に出てみた。


外の風が気持ちいい…


わたしは川辺りの白鷺が見れないか、反対側に回ってみることにした。


同じように物干し場があって、近づくと人の声がする。

先客がいるみたいだ…


そうなると入って行けないわたしは、仕方なく部屋に戻ることにした。


「だけどさぁ…数祈くんも好きな子がいたのは知ってたけど、まさかあの歳で結婚までしちゃうとはね…」


あ…霧嶋くんの事だ…

盗み聞きは良くないと、

わたしは急いで戻ろうとした。


「入学してからずっと好きだったんだし…彼としたらあともって1年なんでしょ?

それまでは少しでも一緒にいたかったんじゃない?」


…えっ?

……何?

部屋に戻ろうとしていた足が固まった…


「あんなイケメン男子が難病で治療法も無いなんて…勿体ないよね…」


「それより女の子の方が大変だよ…子供と一緒に残されちゃって…

私だったら絶対無理! 死ぬって判ってる男の子供なんて産めないよ…」


ど…どう云うこと?

霧嶋くんが……難病…?

もって…1年…って……


わたしは頭が混乱して判らない…


《1年でいいから僕と一緒にいて…》


あれは…そう云うことだったの…?


そんな…


その時、心臓がいきなりきゅう〜と握られているようになって、上手く息が出来ず立っていられなくなった…


霧嶋くん…お願い…

こんな話…間違いだって言って…


別の人の話だ…

霧嶋くんのことじゃない…


その後…頭の中が真っ白になる…







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