第114話 腐った林檎

 入口に付けた鐘の音だ。


こんな時間に誰だ?

俺は不審に思いながらも、ドアヘ近づき声をかけた。


「何の用だ?」


(お届けものです)


ドアの外からクモッた声がする。


赤い彼岸花を見て、感傷的な気分になった所為だったんだろう…

俺は迂闊にもドアを開けてしまった。


その瞬間物凄い勢いで人が乱入して来た。

長い髪の女だった!


「やったぁー!」


甲高い声が、静かな店内に響く。


「誰だ?お前」


俺は訝し気な目を女に向けて訊いた。


「やだっ、同じ学校でわたしを知らないのは貴方くらいよ、瀬戸翔吾くん」


女は不敵な笑いを俺に向けている。


「わたしは宮脇華菜子みやわきかなこ、貴方が学校に来ないから仕方なくこんなつまらない所迄会いに来てあげたのよ」


高飛車なものの言い方だ。

一体何様だと思ってるんだ?


「俺は頼んだ覚えはない」


冷ややかに答える俺に、女は目を丸くしたが直ぐにケラケラと笑い出した。


「男の人ってなんでそうやって強がるのかしらね、 でもそんなところ好きよ」


女は、品定めをする目を俺に向けて上着を脱ぎ始めた。


俺は迷わず壁にあるベルを押す。


女は気付かずベラベラと喋り捲っている。

脱いだ上着の下から現れたのは、豊満な肉体を強調した露出度の多い下品な恰好だった。


「合コン指名No.1のわたしが彼女になってあげるわ。 朝まで二人で愉しみましょう」


何がNo.1だ!

差し詰め誰とでもベッドを共にする身持ちの悪い女1位と云ったところか…


まるで腐った林檎だな…

周りに悪影響ばかり伝染させる


「おい、警告するぞ。今すぐ素直に帰るならタクシーを呼んでやる」


「何それ、笑える〜」

女はまたケラケラと下品な顔で笑っている。


「貴方こそ素直になりなさいよ!欲しいものは決まってるんだから!今直ぐベッドに行ってもいいのよ!」


女が向きになりだした。


やれやれ…

男も 女も

下半身でしか物を考えられない生き物とは

話し合いは不可能だな…


店の外に車が停まる音が聞こえる。

“時間切れ”だ…


間もなく制服を着た男が二人、慌ただしく店に入ってくる。


「大丈夫ですか、先生!」


制服を着た男のうちの一人が俺に向かって声をかける。


「俺は大丈夫だ。それより不法侵入なんで頼むよ」


女を指差し男に言った。


「な…何? 違うのよ! この男がっ…

この男がわたしをここに連れ込んだのよ!」


「何馬鹿なことを言っている!

先生がそんな事をする訳ないだろ!」


男二人に両脇を抱えられても尚、女は暴れている。


「ちょっと! 何とか言ってよ!

酷いじゃない!」


俺は女を睨みつけた。


「酷いのはそっちだろう?いきなりお仕掛けてきて色仕掛とは…まともな人間のすることじゃない。

お前の言い分などここじゃ誰も信用しない」


俺は吐き捨てるように言ってやった。


「俺は警告もしたが無視したのはそっちだ。ところが俺は親切なんでね、暗い山道に放り出すのは可哀想だから護衛を付けてやったんだ…寧ろ感謝して欲しいね」


女の顔が、悔しさと怒りでみるみる紅潮していく。


悪いな…

俺はこの辺じゃ小学生でも知ってる程

人間嫌いの画家だと有名でね…








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