第113話 水月鏡像

 「おい瀬戸、合コン来ないか?

可愛い子ばかり集めたから選り取り見取りだぞ!」


またか…

最近この手の誘いが増えた

女を餌にでもすれば

俺が誘いにのると本気で思っているのか?


そうだとしたら見当違いも甚だしい!

その程度の男だと思われ、

器量を値踏みされたのも腹が立つ!


俺は返事もせず歩き出した。


「待てよ、気に入った子がいたら途中で抜けてもOKだからさ」


そいつが俺の肩を掴んだので、思い切りその手を振り払ってやった。


「二度と俺に構うな。 そのふざけた集まりに誘うのも金輪際止めにしてくれ!

不愉快だ!」


男は一瞬たじろいだが、まだ諦めがつかないらしく俺を誘った。


「いや、来たら絶対おもしれーって!

可愛い女の子と楽しく遊ぼうぜ」


くそっ! クズめっ!

お前みたいなヤツがいるからはみんな女をで選ぶ生き物だと誤解されるんだ! 


「余計なお世話だ。欲しい女は自分で手に入れる。つまらない女を頭数だけ揃えてお膳立てされるのも迷惑だ! 放っといてくれ!」


俺は頭にきてその男に向かって言い放った!



最近は特に俺と絡もうとする恥知らずが、男女関係なくあからさまに増えた。

ふざけた誘いを断るのも面倒になり、9月に入ってからは学校を休んでいる。


画廊が建ってる場所は、ただでさえ辺鄙な村の山近くとあって、呆れるほど自然豊かだ…


今はそこら一面、赤い彼岸花が咲き乱れている…


真古都アイツは線香花火みたいだと言って、この花が好きだった…


アイツは泣き虫だから…

俺のいないところで

泣いてないといいんだがな…


俺は赤い彼岸花を一本折ると、

コップに水を入れて絵の近くへ飾った。


額装の奥にある“月”と違って

この花は触れることが出来るから…



今は絵の上から布を被せて見えないようにしてある。

この絵の現物見たさに、買う気もない絵の予約をするヤツが現れるようになったからだ。


この絵がどんな絵かは、ネットを検索すれば幾らでも見れる。

ウチのサインボードに使っているから…


しかし、俺自身はこの絵にさして高い評価は付けていなかった。


何せ、彼女に対する俺の想いを込めただけの個人的な絵だったんだ…


それがウチとは関係なく至る所で作者不明の絵として話題に上った…

その上頼みもしないのにドコゾの偉い先生があの絵を批評し、高い評価を付けやがった!


全く迷惑な話だ!


どこから漏れたのか、あの絵の作者が俺だと云うことも露顕してしまった!


今や俺は

片田舎で小さな画廊を営む

変わり者の店主から

将来有望な若手画家の画廊経営者に

クラスチェンジだ!


くそっ!












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