第111話 静かな時間

家に戻ってからも、霧嶋くんは色々と気にかけてくれた。


「真古都さん…そろそろお茶にしようか」

「うん」


今日はよく晴れて気持ちがいいので、中庭に出てお茶にする。

中庭の東屋まで霧嶋くんが手を引いてくれた。


霧嶋くんはいつも優しい…

泣いて当たり散らしてた時も…

どうでも良くなって

何も話さなくなった時も…

具合が悪くなった時も…


プロポーズを受け入れたのに

どこかおざなりなわたしにも

変わらず優しくしてくれた…


霧嶋くんの気持ちが…

わたしには苦しい…



僕は真古都さんが退院してからは

なるべく彼女と一緒に時間を過ごした。


僕にとっても二人の時間は

あと僅かだと気付かされたから…


真古都さんが少しづつ

話しをしてくれる様になって嬉しかった…

それなのに仕事ばかりしてごめん…


もっと君を大事にするよ…

最期のその時まで君だけを想っている…

何も特別なものはいらない…

君と一緒にいたい…それだけ…

君さえいたら他には何もいらない…


二人でお茶を飲んで、話をして…

そんな時間が凄く大事に思えてくる…



「どうぞ…」

僕は蒸らした紅茶をカップに注ぐと真古都さんの前に静かに置いた。


「いい香り…」

霧嶋くんが入れた茶葉の缶を見る

”マリアージュフレール“の缶!


「今日はいつものロンネフェルトじゃないんだね」

わたしは霧嶋くんに訊いてみた。


お腹に赤ちゃんがいることが判ってからは、気を遣ってこのブランドのノンカフェインを出してくれてる。


「母さんが、贈ってくれたんだよ。君が紅茶好きなのを知って、茶葉とお菓子を」


テーブルには茶葉の缶と一緒に可愛らしいお菓子が並んでいた。


茶葉はマリアージュフレールの

”ウエディングインペリアル“だ…


結婚したから…茶葉の名前に気を遣ってくれたのかも…



真古都さんが“マリアージュフレール”の茶葉が好きなことは先輩から聞いて知ってた…

でも、今までそれを出す心のゆとりが無かった…


「お義母さんにお手紙出すね」

一年だけの結婚生活に後ろめたさもあるけどお礼の気持ちを伝えたいのは本当だった。


「ありがとう! 母さんも喜ぶよ」

真古都さんが紅茶を幸せそうな顔で飲んでる。


「このお菓子 美味しいね」

真古都さんが笑顔を向けてくれる…

茶葉とお菓子を贈ってくれた母さんに感謝だな…


こんな、何でもない時間とやり取りが

こんなに幸せな気持ちになるなんて…


溢れる気持ちが止まらなくて

隣に座っている真古都さんの手を取って

その指先にキスをする…


「な…何?」


真古都さんが困惑の表情で聞き返す。


「大好きだよ 真古都さん…」











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