第109話 小さな命
「心臓…ですか?」
「そう、ドキドキ動悸がしたり、苦しくなったり…」
わたしはまた貧血で倒れたので病院にいる。
「よく…覚えてません。自分では体力が無いからだと思ってました。だから…遠足も林間学校も行ったことなくて…泊りがけの旅行でさえありませんでした…」
わたしは病院の先生から、子供の頃どうだったか聞かれたので答えてる。
子供の時は徒競走も途中で息があがってしまって走れなかった…
「元々あまり丈夫なほうではなかったのでしょう…少し用心したほうがいいですね。
お腹の胎児は小さいけど心臓の音もはっきり聴こえるし大丈夫ですよ!」
念の為、今夜は病院に泊まることになった。
「数祈くん…」
真古都さんと一緒に出ようと席を立った時、先生から声をかけられた。
「今日は君も泊まりなさい。大分無理をしているんだろう?このままでは約束の時間さえ果たせなくなるよ」
先生が心配してくれてる事は判っている。
だけど僕に時間が無いことも確かだ。
「先生…僕にはこれしかもう真古都さんに
してあげられる事は無いんです…
真古都さんにはこれから先…大変な事も…辛い事も…たくさん起こる…だけど…
僕は側にいて助けてあげる事が出来ない…」
こんなことになるなんて…
自分の躰が病気でどうにもならないのはとっくに諦めがついてた…
せめて最期は好きな女の子と一緒にいたい…それだけだったのに…
「君の気持ちも判るがこれから彼女が始めて経験する”出産“と云う大仕事を一人でさせるつもりなのか?君だって本当は立ち会いたいだろう?」
先生は目の前の事しか見えず、盲目的に仕事をしている僕を、静かに諭すように語り掛けてくれた。
「ずっと君の躰を診てきた…今更1年も2年も命が伸びるとは言わない。
だが、もう少し大事にすれば出産の喜びを二人で迎えることが出来るんだよ。
何のために一緒にいるんだい?
彼女と一緒の時間を大事にしなさい」
僕は泣きそうになりながら、先生に頭を下げ真古都さんの病室へ向かった。
『やっぱりわたしの躰…他の人より弱かったんだ…』
小さい時からすぐ疲れて熱を出すから遠出なんてしたこと無かった…
人混みは苦手だから別に苦にならなかった。
それでも瀬戸くんから初めてキャンプに誘われた時は凄く嬉しかった…
お泊りの旅行なんて本当に初めてだったから…
日が落ち始めた西の空を無意識に見上げる。
『翔くん…』
どうにもならない気持ちを抑えたかったけど、先生から躰のことを言われて不安で涙が溢れてきた。
「真古都さん…」
不意に後ろから名前を呼ばれる。
「どうしたの!?」
泣いてるわたしを見て、霧嶋くんが慌てて傍までやってくる。
「ごめんね。先生のお話思い出したらちょっと不安になっちゃって…」
この期に及んでもまだ、未練がましく心の内で瀬戸くんを想っている自分に罪悪感が襲ってくる…
「真古都さん 僕がいるよ!
君の傍には僕がいるから!」
霧嶋くんはわたしを抱き締めてそう言った。
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