第107話 想いの代償

 僕は真古都さんに酷いことをしてしまった。


僕は身勝手な男だ…

自分の想いを遂げることしか考えていない…


その所為で真古都さんを傷つけた


それでも自分本位な僕は真古都さんを求めてる…

最期の時間ときは彼女と一緒にいたいから



「数祈くん、君は父親になるんだよ」

医者は僕にそう言った。


真古都さんの貧血が酷くなって、食事も摂れなくなってきたから病院で診てもらった。


「だ…ダメだ…僕はもうすぐいなくなるのに…先生…彼女からその負担を取り除いてあげて…」

彼女だって嫌なはずだ…

僕は先生に頼んだ。


先生は少し間を置いてから僕に言った。


「君たち二人に授かった生命いのちだよ。二人で話し合いなさい。


君が自分の躰のことで彼女に負担を強いるのは辛いかもしれない。


だが、君の命を受け継ぐ子だ…

よく考えて決めなさい」


僕の命を受け継ぐ子…


だけどそんなこと真古都さんにさせられない




「産むよ…この子はだから…」

彼女は思いを込めた顔で僕に告げた。


どれだけ説得しても無駄だった…

だから僕は

僕の出来る事をしようと決めた…


1年だけの結婚…

でも、これで僕がいなくなった後も

少しは二人を守ってあげられる…


だ…


僕は…

生まれてくるこの子には逢えない…

声を聞くことも

成長を見守ることも出来ない…


喜びの笑顔を見せる時も

悲しみに満ちて泣く時も

何かに躓き思案にくれる時も


僕は側にいてあげられない


一緒に笑うことも

涙を拭ってあげることも

助言をしてあげることも


僕には出来ない


だから…

二人のために

助けてあげられる事をしよう…




「数くん…お茶入ったよ」

真古都さんが僕の部屋に顔を覗かせて声をかけてくれる。


「あっ…もうこんな時間だ! ごめん真古都さん」

僕はパソコンのデスクから立ち上がった。


「数くんのお部屋パソコンいっぱいで凄いね」

僕の部屋は今パソコンを5台置いてある。

その他にFAX、コピー機などで雑然としていた。


「仕事で使うから仕方ないよ」

「えっ? 数くんお仕事してるの?」

真古都さんが驚いた顔で、僕をまじまじと見ている。


そう云えば日本での生活費がどこから出ているのか話していなかった…


「滞在中の生活費は自分で稼ぐのが、母さんとの日本に帰る条件だったんだよ」

僕は改めて真古都さんに説明した。


今の時代、パソコンがあれば大概の仕事はどうにでもなった。

真古都さんと生活するようになって、僕は引き受ける仕事の量を可成り増やした。

それは僕がいなくなった後

二人のために僕が出来る事だったから…


「真古都さん、僕たち結婚したんだよ。

夫が無職な訳ないでしょ。だから真古都さんは安心してていいんだよ」








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