第105話 白い彼岸花

 「真古都さん…具合どう?」

窓辺の椅子に躰を横たえているわたしに、心配そうな顔で霧嶋くんが声をかけてきた。


「少し怠いけど大丈夫…」

わたしの体調を気遣う彼に、少し微笑んで返す。


霧嶋くんと生活するようになって4ヶ月…

ここひと月程前から体調不良が続いていた。


最初は軽い目眩や胃が重い感じだった…

そのうち酷い吐き気を繰り返すようになり、

食事も満足に取れなくなった。


心配した霧嶋くんが、昨日彼の掛かり付け医のところへ連れて行ってくれた。

結果は何となく予想がついていた…



紅茶お茶を入れたから一緒に飲もう。レモンのスライスも持ってきたよ」

紅茶をテーブルに置くと、躰を起こす為に霧嶋くんが手伝ってくれる。


「ありがとう」

わたしは彼にお礼を言った。


霧嶋くんは少し神妙な顔をした後わたしの躰を優しく抱き締めた。


「本当に気持ちは変わらないの?」


病院から帰って来たあと、検査の結果について言ったわたしの言葉を確かめている…


「霧嶋くんは嫌かもしれないけど…それくらいの我が儘きいてよ…ね?」


わたしはもう一度彼にお願いする。

検査の結果を訊いた時、霧嶋くんが凄く辛そうな悲しい顔をしたのを、わたしは見てしまったから…


「嫌なんかじゃないよ!」

霧嶋くんが思いつめた表情でわたしを見る。


「ぼ…僕は…1年後には居なくなる約束だから…」

悲しみに満ちた顔で彼が言う…


「それでもいいんだよ。もう決めたんだから…そんな顔しないで」

わたしは再び彼に笑顔を向けた。


普段ストレートでしか紅茶お茶は飲まない。ミルクも朝少し入れるくらいだ。


でも、今はレモンのスライスを浮かべた紅茶が美味しかった。



「真古都さん…明日体調が良かったら一緒にお出かけしよう?」

ずっと体調が悪かったから久々のお出かけだ。わたしは嬉しかった。



朝から気分が良かった。

キッチンでサンドウィッチを作る。


他にもサラダと摘めるおかずも一緒に容器へ詰めた。


「真古都さん何してるの!躰に障るよ!」


キッチンに立っているわたしを見て、霧嶋くんが慌てて近づいて来る。


「これくらい大丈夫だよ。今日は体調がいいから」

わたしは心配する霧嶋くんに声をかけた。



霧嶋くんが連れて来てくれたのは郊外にあるフラワーパークだった。公園のあちこちで様々な花が咲いている。


「綺麗だね霧嶋くん」

「うん、でも君に見せたいのはこっちなんだ」

そう言って手を引いてくれた。


少し歩いた先に見えて来たのは一面の赤い絨毯だった。


「素敵!」


見事に咲き乱れる赤い絨毯…

彼岸花だ。


わたしと霧嶋くんは小径の脇にあるベンチでお弁当にする。


「真古都さん、ちょっと待っててね」


霧嶋くんは走って何処かへ行ったあと、戻って来てわたしの手を取ってキスをする。


いきなりどうしたのかと思っていたら、一輪の白い彼岸花を差し出された。


「僕と…結婚してください。

1年しか一緒にいられないけど僕の奥さんになって…」


霧嶋くんが真剣な顔でプロポーズしてきた。


白い彼岸花…


花言葉は


“想うはあなた一人”




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