第104話 常闇 のはじまり

 霧島が帰ってから何日たったのか…

日付も時間も判らなくなるほど俺にとって

真古都を失った悲しみは大きかった…


なぜ…真古都から電話をもらった時

直ぐ行ってやらなかったのか


なぜ…週末なんて言ったんだ

真古都は怯えて泣いていたのに…


あの時行ってやれば…


全て俺の所為だ…


心に浮かぶのは取り返しのつかない

後悔ばかりだ…



何もする気になれず…

魂の無い人形のように

同じ場所で

ただ虚空を見つめる日が続いた…



一週間ほどそんな日を繰り返していたが、

俺は立ち上がって、普段使わない荷物がしまってある奥の部屋へヨロヨロと移動した。


部屋の一角に画材を置いてあるスペースがある。

俺は新しいキャンバスを取り出し三脚に立てると、そこから一心不乱に描き始めた。


今のままでは気が狂いそうだった。

真古都を失って、間抜けな過去の自分をいくら責めて後悔しても何も変わらないのに…


俺は眼の前のキャンバスに真古都への想いをこめて筆を走らせた。


真古都…お前が好きだ

お前の身に何が起きようとも

この気持ちは

自分ではどうすることも出来ない


《生涯お前だけを好きでいると誓う》

一昨年渡した指輪に込めた想いを

お前が何処にいようと

変わることはないだろう…




絵が仕上がった翌日から

形振り構わず黙々と勉強した。


元々人付き合いの悪い俺だ。

中学時代の根暗で無愛想な俺に逆戻りしただけだった。

学校でも必要最低限にしか他人ひとと関わらなくなった。


親父や露月さんが心配しているのは判っていたが、実家にも帰らず俺はひたすら勉強に明け暮れた…


ヘタに実家へ帰れば真古都とのことが話題に出るだろうし…


…それも辛かった。


慰めの言葉も、励ましの言葉も、

どんな言葉も俺は欲しくなかった。


俺が今望んでいるのはそんなものじゃない…


俺が欲しいものはたった一つだけだ…


《人の気持ちなんて努力でなんとかなるもんじゃないんだよ…》


いつだか…真古都お前に言われた言葉だな…

本当にその通りだ…


今の俺を他人ひとはバカにするかもしれない…

情け無い男だと嘲笑うかもしれない…


だけど俺は自分の気持ちに忠実に生きて行くことにするよ…


お前が今、どれだけ涙を落としていても、支えてやれない俺をどうか許してくれ…




  










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