第103話 籠女

 ん…頭が…痛い…わたし…なんでベッド?

…ここ何処…?


「やっと気がついた?真古都さん」


その声で虚ろだったわたしの頭も一変に覚醒した。


「霧嶋くん!」


彼は隣で、側臥位の状態に頬杖をついてわたしの顔を見ている。

視界に入る範囲で言えば上半身は裸だ!

わたしは慌てて離れようと、躰を起こしかけて気がついた…


「やだっ…なんで?」

わたしどうして何も着てないの⁉


わたしは、まだ少し重たい頭で考えた…

この家に来て…

紅茶お茶を飲んで…

帰ろうとしたけど動けなくなって…

霧嶋くんが服を脱ぎ始めて…


「!!」


ま…まさか…


「僕のお願い…思い出した?」

そうだ!それでわたし帰ろうとしたんだ…


「なんでこんな事するの…わたしには瀬戸くんがいるのに…」


わたしの返事が悪かったのか、霧嶋くんは先程までの笑顔は無くなり、躰を近づけ上から見下ろしてきた。

わたしは怖くなった…

こんな霧嶋くんは初めて見る…


「君は…僕がどんなに想いを寄せても…先輩しか見てなかった…ずっとそうだった…」

「霧嶋くん…それは…」


離れて欲しくて、霧嶋くんの胸を両手で押し返すがビクともしない…


「霧嶋くん…やめて…」

涙が出て来た…こんなのやだ…

「僕もね、こんな酷いことはしたくないけど…これ以外君を手に入れる方法がないんだよ」


霧嶋くんの躰がわたしの上に来る。


「お願い!お願いだから止めて!」


どんなに抵抗しても霧嶋くんに腕を押さえつけられて何も出来ない!


「好きだよ真古都さん…ずっと…

ずっと好きだった…」

「こんな…」


わたしの言葉は霧嶋くんの唇で塞がれてしまった…


初めて瀬戸くんにキスされた時、凄くビックリしたけど嫌じゃなかった…


今は嫌!

霧嶋くんのことは嫌いじゃない…

でも…キスは嫌だ!


《彼氏以外ダメだから》


瀬戸くんごめんなさい…


《男と二人きりになったらダメだ》


瀬戸くんごめんなさい…


《俺だけだから》


瀬戸くん…ごめんなさい…



わたしの躰に霧嶋くんが自分の想いを一方的に注ぎ込む儀式を行っている間、頭に浮かんでくるのは瀬戸くんへの謝罪の言葉ばかりだった…


あんなに気をつけるように言われてたのに…


こんな事になるなんて…



「真古都さん…」

霧嶋くんが再びわたしにキスを求めて来る…


「霧嶋くん…酷いよ…こんなの…」

もう、どうにもならないと解っていても、溢れる涙と一緒に彼を詰った。


「どれだけ酷く詰ってもいいよ…

それでも僕は君と一緒にいたいんだ…」


鼻が触れてしまいそうな程顔が近づく…

わたしの知ってる霧嶋くんじゃない…


「恨まれる事で僕がいなくなった後も、君の記憶に僕が残るならそれでいいんだよ…」


霧嶋くんの儀式はまだ終わらない…


「ずっとこうしたかった…」

永遠とも思えるこの儀式がわたしは苦しい…


「ずっと…ずっと…

こうして君を僕のものにしたかった!」


違う!違う!違う!違う!違う!違う!


わたしが躰を預けたいのはこの世界中でたったひとりだけだ!


いつだって優しくて…


いつだって助けてくれて…


いつだって傍に居てくれた…



わたしは…

わたしは…


瀬戸くんが好きなんだ…!


こんなに…こんなに…

あの人が好きだったなんて…


わたしはなんてバカなんだ…


あんなに大事にされていたのに…


今の今まで

この気持ちに気づかなかったなんて


なんてバカだ!


もう二度と逢えなくなってしまった…


わたしは一度もこの気持ちを伝えていない


瀬戸くん…

貴方が好きです

誰よりも大好きです


貴方に

一度でいいから伝えたかった…



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