第102話 雨の中の月

 真古都から連絡が来ない…


何かで遅くなっても必ずその日のうちに連絡してくれたのに…


次の日は学校に行ってもまるで上の空だった。

その上、霧嶋の事もあり不安で堪らず、始終イライラしていた。


こんな俺が周りと上手く溶け込めるはずがない。


『今夜…真古都から連絡が無かったら…

明日はアイツのところに行こう…』


たった一日、彼女から連絡が無いだけで、この有様だ…


くそっ!


真古都…


お前…一体どうしたんだ?

何があった?

今何処にいる?



家に帰っても携帯を前に落ち着かなかった。


コンコン… コンコン…

ドアをノックする音が聞こえたが、それどころじゃ無かった。


コンコン… コンコン…

くそっ! 誰なんだ!


「はいっ⁉」

俺は苛立ち紛れに声高でドアを開けた。


「…っ!」

そこに立っていた人物を見て躰中の血が沸騰するようだった。


「き…霧嶋っ!」

コイツの名前を苦々しく吐き出す。

こっちの態度を気にも止めず、相変わらずスマしているコイツに苛立った。


「何の用だ?今お前に構ってる暇はない。」

コイツには色々言いたいこともあったが、今は真古都の方が気になった。


「連れないなぁ…先輩には無くても僕にはあるんですよ…真古都さんの事とか」

その名前を訊いて、反射的に霧嶋へ掴みかかった。


「その事で僕、先輩にお願いがあるんです。中で話しましょうか」

俺が掴んだ手を振り払うと、さっさと部屋の中へ入って行った。


「結構良いところですね。 あれ?先輩誰かから連絡待ちですか?」

部屋にはいり、テーブルの携帯を見て霧嶋が言った。


「真古都さんからなら来ないですよ」


「お前っ!真古都をどうした!」

厭な予感が俺を襲った。


「今…ウチにいます…先輩…僕に真古都さんの時間をくれませんか…」


「お前っ!何バカな事を言ってる!真古都がそんな事承知する訳ないだろ!」

俺は怒りでどうにかなりそうだった。

真古都が俺を裏切る訳がない!


「真古都さんは…承知してくれましたよ。

先輩の代わりに、僕と出かけて寂しさを埋めていた償いだと思いますけど…」


自分の不甲斐なさで真古都に淋しい想いをさせた苦い思い出が蘇る…


「そんな事だけでお前のところに残るものか‼アイツに何をした!」

霧嶋を掴んで怒鳴った。


「ま…真古都さんを……無理やり抱きました…」

『なんて…ことを…』

何かが、自分の中で崩れて行く音がする…

多分、次の言葉を訊かなかったら思い切りコイツを殴っていただろう…


「先輩…僕…もうダメなんです…

これが最後のチャンスなんです…」


コイツの病気を知ってしまった事実を

俺は今更ながら後悔した…


「お願いします…一年でいいんです

真古都さんの傍にいさせてください…」


霧嶋を離した俺の手は震えている…


そんなの…

ダメに決まってるじゃないか…


「先輩! もう時間が無いんです!

死ぬんですよ僕!」

霧嶋が俺に向かって懇願する。


俺はヨロヨロと壁際まで下がると霧嶋に背中を向けた。


「ま…真古都は…

アイツは…紅茶が好きなんだ…」

震える声で伝える。


「はい…」


「朝はミルクティーで…それ以外はストレートだ…」


「はい…」


「茶葉は…たまには奮発して…マリアージュ・フレールにしてやってくれ…」


「は…い…」


「ア…アイツは…ホットケーキが好きなんだ…パンケーキじゃないからな…」


「は…はい…」


それ以上声が出なかった。


「先輩っ! すみません!」


その言葉と共に出ていく足音が聞こえ、その後静寂が続いた。


俺は…またも自分の不甲斐なさでアイツを離してしまった!


「うぁーーーーーーーーーーーーっ!」


真古都がいなくなった悲しみと後悔…

間抜けな自分への怒り…


様々な想いが自分の中で交差していく…


俺は…初めて声をあげて泣いた…















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