第99話 月に叢雲 花に風 前編

 「ねえ、三ツ木さん。今度の金曜なんだけど、合コンやるの。来ない?」


同じ学部の美園仁子みそのひろこさんが、声をかけてくれた。


「ありがとう。でも、そう云うのは参加出来ないです」

わたしは断わった。


「人数が足りないのよ! お願い!」

美園さんが何度も頭を下げてくるが答えは同じだ。


「わたし彼氏いるからごめんね」

あまり執拗しつこいので、わたしはその理由を伝えた。


「うそっ!」


まあ、わたしに彼氏がいるなんて誰も思わないよね…


校舎から出て中庭を正門に向かって歩いて行く。

「ねえ、どうしてもダメ?」

「ごめんね。大切な人だから誠実でいたいの」

やだな…

男の人となんて話もしたくないのに…


正門付近まで来ると何やら騒がしい…

女の子がやたら集まって騒いでるこの感じ…

高校の時に見慣れた光景だ…


「真古都さん!」

………うそっ⁉

女の子が固まってる中から聞き慣れた声が聞こえてくる。


まさかとは思ったけど、なんで?

平日のこの時間て…まだ学校だよ?


「逢いたかった!」


霧嶋くんは近づくなりわたしを抱き締めた。


キャ~ッ!

女の子たちの黄色い声が飛び交う…


この周りの反応も一緒…

次は…多分…


「大好きな真古都さん。逢えて嬉しい」


握られた手の甲に軽くキスをされ赤い薔薇の花束を差し出される。


何度も経験済みとは云え…

やっぱり慣れない…


仕立ての良い上品なスーツにリボンのタイ…

相変わらず王子様みたい

卒業式以来だけど…

霧嶋くんのカッコ良さは変わらない…


「み…三ツ木さん、この人だれ?」


美園さんが霧嶋くんを見つめながらわたしに訊いてきた。


「あ…霧嶋数祈くん。高校の後輩です」


わたしは美園さんに型通りの紹介をする。


「はじめまして。霧嶋数祈です」


霧嶋くんはその甘いマスクで柔らかな笑顔を彼女に向けて挨拶してる。


「わ…わたし美園仁子といいます。三ツ木さんとは同じ学部で仲良くしてるの!」


凄いアピールだな…

でも仲良くは失言だよ…

わたしがコミュ障なの

霧嶋くんだって知ってる筈だもの…


「真古都さんにがいるなんて知らなかったよ。彼女、するけどよろしくね」


霧嶋くんも涼しい顔で答えてる…


「彼女とは仲良しなんです!任せて下さい!

だからわたしの名前も覚えていてくださいね! 


美園さんが霧嶋くんにすり寄ってる…


「勿論ですよ。僕の大切な真古都さんにさん」


霧嶋くん、笑ってるけど…

怒ってるな…きっと…


「真古都さん行こう。それじゃあ


わたしは霧嶋くんに手を引かれながらその場をあとにする。



「あの子…嘘つきだなぁ…」


霧嶋くんが笑って言う。


「そんなことより学校はどうしたの?」


わたしは心配になって訊いた。


「ん? 辞めちゃったよ」

「えっ?」


「真古都さんのいない学校に行っても仕方ないから…辞めちゃった」


霧嶋くんがまるでそれが当たり前かのように笑って答えてる。









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