第二章
第98話 新たなる日々
「これで引越も終わりですね」
引越の荷物を、借りてくれた部屋に運び終わって露月さんが言った。
「ありがとう露月さん。後は俺と真古都でやるよ」
忙しい仕事の中、手伝ってくれた露月さんにお礼を言った。
「そうですね、邪魔者はそろそろ退散しましょう。真古都さん、後はお願いします」
露月は二人に笑顔を向けるとそう言った。
翔吾も真古都も途端に顔が赤く染まった。
腹の探り合いをしている大人たちの中で育ったからか、翔吾は子供の頃からどこか冷めた子供だった。
そのうち人嫌いになり、他人を信用しなくなっていった。
そんな彼に好きな子が出来た。
露月も翔吾の父親も最初信じられなかった。
しかも彼女も翔吾を好いてくれてる。
露月にしても、まさかこんな翔吾を見られる日が来ようとは…
願わくば、二人で育てた気持ちが生涯続いてくれればと思わずにいられない。
「大分片付いたな、真古都もありがとう。
そろそろ行くか?」
翔吾の新しい住居から、真古都の住む地元迄2時間はかかる。
以前のように家まで送れない翔吾としては明るいうちに帰したい。
「あ…あの…引越の…お祝いしちゃダメ?
お母さんには…ちゃんと…言ってきたから…今日は…翔くんといたいって…」
俯いて頬を紅潮させて話す真古都を、思わず抱き締めた。
「嬉しい…俺も…もう少し一緒にいたかった」
「良かった…ダメって言われたらどうしようかと思った…」
真古都が俺の胸の中で可愛い事を言ってくれる。
「お前との時間は1分でも1秒でも惜しい…こんなに想って貰える俺は幸せ者だな」
「もう! 翔くんのいじわる!」
真古都が一層赤らめた顔を俺の胸に埋めてしまった。
二人で買い物がてら近くを見て歩き、夕食を摂ってから部屋に戻った。
「真古都、風呂用意したから先入れ」
瀬戸くんが声をかけてくれる。
「えっ? いいよ!翔くん先入って!」
わたしは何となく先に入るのが恥しくて、慌てて言った。
「遠慮しなくていいんだぞ」
「大丈夫! 大丈夫だから先入って!」
瀬戸くんは不思議そうだったけど、やっぱり先に入ってもらった。
夏休み最後の日、瀬戸くんとも最後だと諦めてた…だけど瀬戸くんはわたしを好きだと言ってくれた。
嬉しかった…
瀬戸くんの傍にいたかったから…
瀬戸くんと入れ替わりにお風呂へ入る。
『お泊り許してもらえて良かった…
お母さん、相手が瀬戸くんだと大概許してくれるから有り難いな…』
わたしは出る時お風呂を掃除してから、髪を乾かして出た。
「翔くん…お待たせ…」
お風呂から上がったわたしを瀬戸くんは直ぐに迎えに来てくれる。
「よし、来い」
瀬戸くんがわたしを抱き上げてベッドまで運んでくれる。
今まで何回瀬戸くんに抱っこされたかな…
「瀬戸くん、重くない?」
「全然大丈夫だ」
俺は1人で山や森にキャンプへ行くので小さい時から体力作りはしていた。
1年の時、真古都が
“男はイザと云う時、女を抱いて走れるくらいの体力と筋力が欲しいな”と云う言葉を聞いてから筋力作りも欠かしたことはない。
真古都をベッドに入れた後、照明を落として彼女を腕の中に抱いた。
「少しの間遠くなるけど必ず逢いにいく」
「わ…わたしも…来ていい?」
俺は本当に幸せ者だな…
「勿論だ…
好きだよ…ずっと一緒だ…」
「うん…」
俺は自分があんまり幸せなのと、学校を卒業した事で、霧嶋のことを忘れていた…
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