第96話 青い月 〔前回間違えて配信したのでその続きです〕

今回のキャンプでテントからロッジに変えたのも理由わけがあった。


真古都はバカみたいに心配をする。


いくら付き合っていても、男はいつか他に好きな人が出来て自分から離れていくと思ってる。

自分の見目が悪いから、それも仕方ないと諦めているんだ…


でも俺は、真古都がそんな気持ちになるのも、俺の事を想っているからだと嬉しくなる。


何とも想っていなければ心配もしないだろうから…


だけど…

真古都以上に俺が毎日不安でいることを、お前は知らないだろう


お前を失いそうになった時の辛さを一度味わってるから…

二度とあんな思いはしたくない…


今回のキャンプが決まった時、柏崎から言われた。

「旅行先で彼女としようと思ってるならちゃんとした宿泊施設を選んでやれよ。」


とは云え、アイツと違って俺は普通の旅行なんて行ったことがない。

ましてや女の子が喜ぶような旅行なんて俺には思いつくはずがない…


結局俺が唯一出来るキャンプで、宿泊施設だけロッジを借りることにした。


そう…真古都には悪いが、下心があって俺は今回のキャンプに誘った…



「わぁー」

おいおい…火起こしくらいでその歓声と拍手は恥ずかしいって…


「翔くんがやるとホント簡単そうだよね」


俺が飯の支度をしてるのを、真古都は楽しそうに見ている。


「近くに動物園があるから明日行ってみるか?」

俺は真古都に訊いた。

こんな時女の子をどんな所へ連れていけば良いのか判らない…


「ホント?嬉しい!」

真古都は笑顔で答えてくれる。


「翔くんは何の動物が好き?」


「えっ?俺は…アナグマ…」

お前に似ているからだとは恥ずかしくて絶対言えない…


「お前は?」

真古都は牛が好きだったよな…


「動物園なら駝鳥かな」


「駝鳥⁉」

ちょっと意外だったが、牛といい、駝鳥といい、相変わらずポイントのズレてるコイツが可愛かった。


「前にね、高村光太郎の“ぼろぼろな駝鳥”って詩を読んでから…なんか好きになった」


高村光太郎の“ぼろぼろな駝鳥”は抑圧された人間を象徴した詩だ。

真古都らしいな…



飯盒で飯を炊き、シチューを作って星を見ながら二人で食べた。

満天の星空を真古都は凄く喜んでた。



俺は今、ベッドに座り、自分の拳を強く握りしめて何度も深呼吸をしている。

さっきからずっと心の奥で銅鑼の音が響き渡っている。


もうすぐ真古都が風呂から上がってくる…


俺は情け無い男だから…

卒業後、離れて生活する不安に押しつぶされそうで…


だからその前に

どうしても

お前が俺のものだと云う確証が欲しい


「翔くん…」

真古都の声だ!


「ど…どうした?」

少し声が上ずる…


「あの…下…パンツ一枚だから…みっともないけど笑わないでね」

真古都がドアから頭だけ出して俺に訊く。


「大丈夫だから来い」

「ホントに…笑っちゃ嫌だよ?」


真古都が上に着ているシャツの裾を下に引っ張り、なるべく見えないようにおずおずと部屋に入って来た。


『こんなカッコ…男の俺からしたらメチャクチャ嬉しいんだけど…』


真古都がベッドの傍まで来ると、俺から離れて入ろうとする。


「もっと傍に来ないと落ちるぞ」

俺は真古都を自分の方に引き寄せた。 


「だって、下パンツ一枚なんてみっともないじゃん…」


相変わらず気にするポイントもズレてるな…

そんなカッコで襲われないか心配しろよ…


「バカか?男の前でそんなカッコして、

襲われないか心配しろよ…

そんなんだから合宿の時もあんな水着を着るんだ…」


言った瞬間、真古都の顔が暗くなる。

「あ…ごめん…似合わないのに…あんな水着を着て…」


真古都が俯いて謝っている。


「い…いや、違う!そうじゃない!」

俺は彼女の躰を抱き締めた。


「そうじゃないんだ…

あんな…裸に近い姿を、俺より他の男が先に見たのが気に入らなくて…」

あの時の気持ちを打ち明けた…


「悪い…狭量な男で…」


「良かった…みっともないからじゃなかったんだ」

真古都は笑ってるが幾筋もしずくが頰から流れて落ちてる。


「他の…男に見せたくなかった」


真古都が俺の胸に顔を埋めてきた。

元々抱いていた下心も相まって

もう俺の中に理性の言葉は残っていない…


彼女の躰をベッドに沈めその上に被さる。

真古都があれほど気にしていた服はベッドの下に散乱している。


彼女は俺のする行為をそのまま受け入れてくれた…


真古都は

俺にとって闇夜を照らす月だ…


俺が進む未来みち

その優しい光で照らしてくれる。


お前がいなくなったら

俺はもうどこにも行けない…


ずっと俺の傍で

俺の未来みちを示して欲しい













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