第81話 太陽がいっぱい #4

 真古都はずっと俺にしがみついていた。

病院から戻って彼女を部屋に連れていきベッドへ寝かせる。


「縫ったから解熱鎮痛剤が出てるんですね。

今夜は誰か傍についてた方がいいかも…」

笹森が病院から処方された薬を見て言った。


「そう云う事なんで部長のことは先輩にお任せします。僕たちは他にやることあるんで…

それじゃあ失礼します」


稲垣は薬の袋を俺に渡すと、笹森と一緒にさっさと出ていってしまった。

部屋にはケガをして歩けない真古都と俺の二人きりになった。


「翔くんもお部屋に帰って休んで…わたしの所為で疲れたでしょ」

引っ掛かるような言い方が気になる。


「取り敢えず飯にしよう。お前も腹減っただろう?」

真古都にお粥をよそってやる。

俺たちは会話も無いまま遅い夕食を摂った。


食後、彼女に薬を飲ませる。

「ありがとう」

俯きながら真古都が言った。

彼女はずっと俺を見ようとしない。


今言わなければ俺は一生後悔すると思った…

「真古都」

俺は彼女の名前を呼びながら、手を上から重ねるように乗せて握った。

その拍子に、躰を少し固くしている感覚が伝わってくる。

俺の手の中で、真古都の手が震えている。

この手を振りほどかれたくない…


半身を起こしてベッドにいる彼女を抱き締めた。


「真古都…合宿が終わったら…1日だけ俺のために時間をつくってくれ。お前とゆっくり話がしたい…」

断られたら無理にでも頼むつもりだったが、少しして真古都は頷いて承諾してくれた。

ひとまず安堵する。


「お前に言わなければいけないことがある…

謝らなければいけないこともある…

これからどうしたいのか…きちんと伝えたい…

だから…その時はお前も俺が訊いた事に…正直に答えてくれ」



瀬戸くんがわざわざこんな事言うんだ…

話す内容なんて想像がつく…

いつかはそうなると思ってた…


「判った…大丈夫、何でも答えるから」

わたしは泣きそうなのを必死で我慢する。


「ごめん、わたしおトイレ行ってくる」

瀬戸くんの顔を見ないようにベッドを下りる。

ところが、わたしの傷は思ったより悪くて、床に足を着けただけでズキズキと痛んだ。


「痛っ!」

わたしは1人でトイレも行けない…


瀬戸くんが立ち上がって、トイレのドアを開け照明を点け戻ってくる。

「何のために俺が傍にいる?トイレぐらい連れて行くから遠慮するな」

こんな時まで優しいな…

ダメだ…我慢出来ない…


真古都をトイレに連れて行き、ドアを閉めた途端、彼女が声を押し殺して泣く音が漏れてきた。

俺は押し寄せる焦燥感に打ちのめされそうだ…


トイレから戻る時、真古都は俺の胸に顔を埋めている。泣き腫らした顔を見せたくないのだろう…彼女をベッドに乗せると照明をおとしてやった。


「あ…あの…もう無理は言わないから…我が儘も最後にするから…今日だけ傍にいて」

真古都が声を震わせて俺に頼んでいる。

お前が無理言ったことなんて一度もないくせに…

最後ってどう云う事だよ!


俺の服を掴む手が震えている。

お前が俺に何かをねだるなんて初めてだ。

お前の我が儘ぐらい、

俺はいつだって聞いてやるのに…


「大丈夫だ、ちゃんと傍にいる」

俺は諭すように言い、真古都を寝かせて椅子に移ろうとしたが、彼女が俺の服を離さない。


そうだ…

彼女が言うようにこれが最後だと云うなら

俺がコイツを抱くのも、

これが最後と云う事になる…



部長の部屋を僕はそっと開けた。

「どーお?」

横で笹森が小声で訊く。

「二人とも寝てるみたいだ」

一応心配になった僕と笹森は、二人の様子を見に来たが、複雑な気分だ…


ドアを閉め部屋から離れた。

「仲直り出来たのかな?」

笹森が少し嬉しそうに話す。

「さぁな、どちらにしても駒は進まった感じだ」



窓から入る日差しで俺は目が覚めた。

隣には、真古都が俺の腕枕で躰を寄せて眠っている。

久しぶりに彼女を抱き締めて眠った。


夏の太陽の強い日差しが、

窓硝子に反射する度眩しくて鬱陶しい。

だけど真古都とやっと話しをする事が出来る。

今までの鬱々とした気持ちから少し解放されて

気分は良かった。








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