第74話 新年度に向けて

 それから3日後、霧嶋は何事も無かったように学校へきた。


病院で見たあの光景が夢だったみたいに、いつもと変わらない笑顔を真古都に向けている。

バイトの間、ずっと一緒にいたからだろう、幾分二人の仲が近くなった気がする。


「ねえ真古都さん、また一緒に演劇を観に行こうよ…ねっ?」

僕は真古都さんを誘った。

「ホント?連れてってくれるの?」

真古都さんが嬉しそうな顔を僕に向けてくれる。

「勿論だよ。今度は一緒に演目を決めようか?」

「ありがとう!嬉しい」

この笑顔が見れるなら、どこへだって連れていってあげるよ。

僕は君のためなら何だってしてあげたい。

大好きだよ真古都さん。


「おい、真古都。部長が呼んでるから行くぞ」

「あ…はい、じゃあまたね」

真古都さんが先輩のところに走って行く。

彼女が先輩を見つめる眼差し…

時々、先輩が憎らしくなるほど羨ましい…



「新年度からはどっちが部長をやる?」

和泉部長が俺たちに訊く。


「部長は三ツ木がやります」

俺は答えた。


「えっ?…えっ?」

「部長は俺には向いてない。その代わり補佐は任せろ」

真古都が突然の事におろおろしている。

「大丈夫だ、俺がついてる」

その言葉にやっと決心がついたらしい。

「が…頑張ります…」


「うん、それじゃあ部長として最初の仕事だが、副部長は誰がいいと思う?」

和泉部長の問いに真古都は暫く考えてから答えた。

「あの…2年の稲垣いながきくんと、1年の笹森ささもりさんが…」

「やっぱり三ツ木は良く人を見てるな。僕も同意見だ。二人には僕から打診しとくよ。後はよろしく頼む」

和泉部長は俺たちに深々と頭を下げる。

それを見て俺たちも頭を下げた。


「瀬戸」

帰り際、和泉部長が声をかけてきた。


「僕が言うのも何だけど、三ツ木は危なっかしいところがあるから、ちゃんと捕まえておけよ」

「大丈夫です。例えアイツが嫌だって言っても離しませんから」

俺は答える。


「お前たちを1年の時から見てる僕としてはこれからも変わらずに仲良くやって欲しい」

「ありがとうございます」

俺は和泉先輩の気持ちが凄く嬉しかった。


引き継ぎが終わった頃、卒業式になり2年間お世話になった先輩たちを見送った。


4月から俺たちは3年生になる。

真古都と一緒にいられるのもあと1年だ。


その後はお互い別々の進路になる。


恩師である蔵元くらもと先生に言われた事を思い出した。


『そうだ…真古都とちゃんと話をしよう

俺の気持ちを伝えて、真古都の気持ちもちゃんと受け止めよう』











 

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