第65話 明日への道標

 どうしてこうなった?


親父が真古都に夕飯を食べていけと誘ったが、イベント先の社長に活きの良い魚を貰ったとかで、それを食べさせたかっただけらしい。


で、結局その魚を露月さんがさばいて、真古都と一緒に調理している。

露月さんは独身生活が長いため、そこそこ料理の腕前もある。


キャンプでの俺が作る飯も、露月さんから教わったものが結構あるくらいだ。


二人でキッチンに立つ姿を見ていて、何だか面白くない。

露月さんの言葉を受けて、真古都が一生懸命調理している。

露月さんが真古都の傍に寄って色々アドバイスしてる。


『露月さん!近すぎだって!』

二人の様子に俺は一人でイライラしてる…


「真古都さん上手ですね」

「そ…そんな、家の手伝いしかしないので…

人様に食べて貰える様なものじゃないです」


露月さんに誉められて、何だか真古都も嬉しそうにしてる。


「そんなことありませんよ。真古都さんなら直ぐにでもお嫁さんに行けそうですね」

「なっ…無い無い無い無い無い無い無い無い…

わたしなんか貰ってくれる人いませんから!」


全力で否定する真古都に、露月さんもちょっと驚いた様子で、一瞬俺の方をチラリと見たから、俺は慌てて直ぐに目を逸らしてしまった。



夕飯が済むと、露月さんが車で真古都を家まで送ってくれた。


「ありがとうございます。瀬戸くんまた明日ね」

「おう」


真古都が乗っていた間は、露月さんとの話し声が聞こえていたが、今は静かだ。


「翔吾くん、進路はどうするんです?」

突然露月さんが訊いてきた。


「大学へ進むんですか?」

俺は改めて将来の事を考えた。


俺は霧嶋とは違う。

この先何年、何十年と生きて行かなきゃならない。その基盤を作らないと…



俺は真古都を幸せにしてやりたい。

俺ならこの先もずっと彼女の傍にいて

守ってやることが出来る。


そのために、するべき事をしよう。



翌日も真古都は俺の隣に座って勉強している。

判らない問題に当たる度俺に訊く。

俺はその度に彼女に教える。


二人で一緒にいるこの時間。

当たり前だと思っていたけど

そうじゃないことに気付く。


「やっぱり瀬戸くんは教えるの上手だよね」

真古都の何気ない一言が俺に勇気をくれる。

だからこの先の一歩が踏み出す事が出来る。

お前のために頑張ろうと思える。


勉強が一段落して二人で紅茶お茶を飲む。


この先もずっと、お前のその幸せそうな顔を見ながら俺は生きて行きたい。


「真古都」

俺は彼女を胸に引き寄せて抱き締めた。


「真古都、これからも俺の傍を離れずについてこいよ」

胸の中で真古都が頷いてる。


『大好きだ真古都』

俺はこの言葉を言わずに飲み込んだ。


『もう少し待っててくれ

その時は必ずお前を好きだと伝えるから』


霧嶋あいつが戻ってきたら

霧嶋あいつと同じ土俵の上で

お前にちゃんと好きだと伝えて

正々堂々とお前を俺のものにするよ


だからそれまでは

このお芝居ふりに付き合ってくれ




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