第64話 先走る気持ち(こころ)

 真古都に、ちゃんと気持ちを伝えようと決心したものの、どう云う訳か告白のタイミングがなかなか上手く掴めない。


一体、世の中のヤツらは、みんなどうやって伝えてるんだ?

いざ自分の身に起きてみると、なかなか上手く切り出せないでいた。


何がいけない?

時間か?

場所か?



「真古都、お前今度の週末何してる?」

俺は週末の予定を訊いた。


「ん…図書館かな」

コイツが図書館に行くのは大概勉強のためだ。

もうすぐ期末が近い。

人が多いところが苦手なコイツは、

滅多な事が無い限り家から出掛けない。


「週末…ウチに来るか?」

俺は自分の家に誘う。

コイツとは夏休みの宿題も一緒にしたから

きっと断わらないで来てくれる筈だ。

「いいの?」

真古都の顔が嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか?


「図書館に籠って一人でやるより効率的だろ」

「嬉しい! 瀬戸くん教えるの上手なんだもん」

真古都は、俺の教え方が上手いと言って、

喜んで承諾してくれた。


嬉しいのは俺の方なのに…

週末、俺は真古都に告白する決心をした。


そうなると今度は

週末の事が頭から離れず落ち着かない。

全く…俺は何やってるんだ…



「おい瀬戸」

柏崎が妙な顔で俺を見ている。


「今度は何だ?」

付き合いの長いこいつには、俺の様子がおかしい事に気付いたらしい。


俺が週末の話をしたら、少し安心したようだ。


「お前ってさ、俺から見たら何でもそつなくこなすし、完全無敵だと思ってたんだけど、まさか恋愛関係はここまでからっきしだとはな…」


柏崎は心配を通り越して、幾分呆れ顔だ。


「…るせっ」


「だけど、お前でも苦手な事があると思うとなんだか安心するより笑っちゃうな」


俺は恥ずかしくていたたまれない。


渡り廊下のところまで来ると、廊下の向こう側で真古都がうろうろしている。


俺を見つけると安心した顔で近づいて来る。


「良かった、行き違いにならなくて」

「お…おう」

コイツの顔を見た途端、俺の心臓は別の生き物のように暴れ出した。



『心配するなって言っても無理かな…』


彼女三ツ木真古都は俺の知る限り

他人ひとを受け入れない瀬戸が

初めて自分から絡んだ女の子だ


一年の頃から二人を見てる


最初は何の気まぐれだろうと思ったが

彼女が校庭の隅でケガをした時の瀬戸こいつの慌てぶりには俺でも信じられなかった


後輩には悪いが

俺は瀬戸こいつの初恋を成就させてやりたい


彼女が瀬戸といる時の表情

瀬戸あいつを見る眼

俺から見たらまんざらでもないんだけど…

そう思うのは友人の欲目だろうか…



「それじゃあ瀬戸、俺も彼女と待ち合わせしてるからまたな」

「おう」



次の日、俺は駅まで真古都を迎えに行った。


実のところ、この後の事を思うとなかなか勉強が手につかなかった。


「ごめん瀬戸くん、ここ判んない」

横に座って問題を解いてる真古都が訊いてきた。


俺が説明している横で、一生懸命訊いてる。


18時を知らせる時計の音が聴こえてきた。


「続きはまた明日にするか」

俺は真古都に声をかける。

「うん」

彼女は自分の教科書やノートを鞄にしまい始めた。


俺は緊張して思わず唾を飲み込んだ。

「真古都…」

横に座っている彼女が俺の方へ顔を向ける。


「なあに?」

もう少しでぶつかりそうな距離に、

俺はそのまま唇を重ねた。


この気持ちを伝えたいのに

俺の心臓は早馬を飛ばす足音のように

直ぐには止まりそうもない…


真古都はただじっとして俺のする行為を

そのまま受け入れている。


このキスが、仲が良いだけだとは思いたくない…


ゆっくり唇を離して彼女を見る。


「真古都…俺…」

その後を言おうとしたその時

突然ドアをノックする音が聴こえる


『えっ? 嘘だろ?』


「翔吾、今日は真古都さんに夕食を食べていってもらえ」


『親父…タイミング悪すぎだろ……』















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