第63話 葛藤

 霧嶋と病院で会ってから、俺の胸の中には

真っ黒な澱が出来た。


これは霧嶋にも、真古都にも言えない…


霧嶋の病気の事は真古都には話さない。

それは霧嶋が願った事だから。


だけどそれは表向きだ。


俺が真古都に知られたくないから…

だから霧嶋からの申し出を、

さも、霧嶋が頼むから

仕方なく引き受けた様な顔をして

受け入れた。


真古都が俺から離れて行く可能性があるなら

それがたとえどんな小さなきっかけでも

嫌だと思った。


もし俺が霧嶋の立場なら

多分そのきっかけを逃さないだろうから


俺はこの期に及んでも、

まだ真古都に自分の気持ちを

打ち明けられずにいるくせに


彼女を誰にも取られたくないと云う

身勝手な気持ちだけは強かった


真古都は、俺たちの関係をだと

本当に信じてるから


霧嶋が言うように

真古都にとって俺は単なる

仲の良い友達だとしたら


想いを伝えても拒絶されるかもしれない

俺はそれが怖かった…


どうしたらいい?



「何? 話って…」


「悪いが…俺とお前との仲も…これまでになるかもしれない」

俺は悩んだ末、柏崎のところに来ていた。



神妙な顔をする俺の前で、柏崎こいつは腹を抱えて笑っている。


俺は、どうしようもなくなり、

柏崎こいつに話を訊いてもらった。


「全く…いつにも増してお前が怖い顔してるんで何かと思えば…」


俺は何も言えないでいる。


「良いんじゃないか?

その後輩の事は残念だと思うが、

好きな女の前で遠慮してたらダメだ!」


柏崎こいつは、普段おっとりしていて、

虫も殺さない顔をしてるが、

一年の時、好きな女の為に三年の先輩を殴って

停学処分を受けた様なヤツだ。


その甲斐有ってか、彼女とは今でも他のヤツが羨む程仲が良い。

下手をしたら、霧嶋なんかよりも柏崎こいつの方が先に彼女と結婚するんじゃないかと思う程の熱愛ぶりだ。

「自分の気持ちに正直になって俺はいいと思う」


柏崎こいつは彼女のことになると妥協がない。

だからこそ、俺に好きなヤツが出来たことを凄く喜んでくれた。


「俺は…真古都が好きだ」

「うん」


「これからも一緒にいたい」

「うん」


「離れたくない」

「うん」


柏崎が俺の気持ちを静かに訊いてくれる。


「でも安心したよ。お前は変に冷めたところがあるし、女にも全然興味を示さないから、このままずっと一人なんじゃないかと心配してたんだが、そんなに悩むくらい好きなヤツが出来て良かったな」


柏崎と話をして大分気持ちの整理がついた。


俺の中の澱が失くなった訳じゃないが、

真古都への気持ちは固まった


この澱は、

一生俺の中に閉じ込めることにした。



「真古都、帰るぞ」


「はーい」


俺は真古都を迎えにいってやる。

このクラスの男子には、真古都を揶揄ってふざけるヤツが何人かいる。


俺が迎えに行くことで少なからず牽制になる。

これは霧嶋には出来ないことだ。


「瀬戸くん、おまたせ」

「おう」


傍に来た真古都の頭を撫でてやると、

頬を紅潮させ、含羞んだ笑顔を見せる。


これぐらいのことで喜ぶコイツが

可愛くて堪らない。


やっぱりちゃんと伝えよう








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