第66話 鴉と白鷺

 「真古都さん、おはよう」

暫く見なかった顔があった。


「霧嶋くん!」

わたしは思わず彼の近くまで走って行った。


「良かった!ずっとお休みしてたからどうしたんだろうって瀬戸くんと一緒に心配してたんだよ」

久しぶりに見る霧嶋くんの顔は、相変わらず凄く綺麗だけど、何だか少し痩せたかな?


「ホントに?真古都さんが心配してくれたの?」

「当たり前じゃない!友達だもん!」


真古都さんが笑顔を向けてくれる。

良かった…

あんな事をした僕を怒ってるかと

会うのが少し不安だったんだ。


「真古都さん!そこ違うから!

友達じゃなくて、婚約者候補だから!」


僕は少し拗ねて言った。


「えぇっ?」

真古都さんの顔が赤く染まっていく。

可愛いなぁ…

「だって僕プロポーズしたんだよ

そこは婚約者候補でしょ?」

僕は笑顔を向けながら

彼女の手を取ってそこにキスをする。


「きっ…きり…霧嶋くん…」

近くを通る人がみんなこっちを見てる…

霧嶋くんは王子様みたいに綺麗な顔で

女の子の手にキスする仕草も凄く様になってて…

誰だって思わず二度見しちゃう…


「恥ずかしいから!」

握られた手を引っ込めようとしたけど

霧嶋くんがしっかり握ってて離せなかった…


「真古都さん、ちゃんと僕を一人の男として見てよ。約束だからね」

僕は片手で握っていた手を、両手で包むように握って顔を近づけた。


「返事は保留中なんだから、だよ。忘れないで」

「もうっ!」


「さぁ 行こう。学校までエスコートするよ」

真古都さんは頬を染めて困った顔をしてるけど

僕はもう遠慮しないからね。




「よお、来たか。 もう良いのか?」

部活に出ると先輩が声をかけてくれる。

なんだかんだ言っても気にかけてくれる。

お人好しなんだよな…


「お陰さまで、安定してますよ」

僕は返事をする。

まさか先輩と病院で会うとは思わなかったけど、

病気の事を知られちゃったなら仕方ない…

その分、真古都さんには今まで以上に

ガンガン行かせてもらいますよ…



霧嶋のヤツ、退院してから前よりずっと真古都にベッタリだな…

まぁ、あいつにしてみれば1分でも1秒でも一緒にいたいところなんだろうが…


その所為で

《霧嶋くんの方が彼氏っぽくない?》

《あんな大勢の前でプロポーズしたんだその気持ちを買ってやれば良いのに》

等々……

霧嶋を推すヤツらが出始めた。


ふざけるな!

プロポーズだろうが何だろうが

元々、真古都は俺の女なんだよ!

くそっ!


しかも、

霧嶋が純白の王子なら、

俺はその後ろから着いて行く黒騎士だとか…

それだけならまだしも

霧嶋が白銀の白鷺で

俺は回りを飛び回る鴉だと言うヤツがいる!


何なんだよ!

全く無責任な外野に腹が立って仕方ない。


いつものように真古都を送って行くと、彼女の母親と会った。


「お母さんどうしたの?」

「配達の子が来なくなっちゃって…まぁ、力仕事だから大変なのは判ってたはずなのにね…」

今はクリスマスに向けて忙しいらしく、アルバイトを雇ったが力仕事が嫌でばっくれたようだ。


「瀬戸くん、ウチでアルバイトしない?」

いきなり真古都の母親が俺に訊いてきた。

「お母さんてば、何言ってるの!」

真古都が慌てて止めている。


「いいですよ」

俺は真古都の母親に言った。

「期末も終わりましたから大丈夫ですよ」


「瀬戸くん無理しなくていいんだよ?」

真古都は心配して俺の顔を覗き込んでいる。


「本当に大丈夫だ。それに、真古都の家が困ってるんだ、俺で役に立てるなら嬉しい」


真古都の母親は凄く喜んでくれた。


俺は、クリスマスが終わるまで真古都の家の花屋で平日3時間、土日8時間配達のアルバイトをすることになった。










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