第57話 一歩近づく二人

 『朝か…』


真古都が俺の腕の中で眠っている。

胸の上に顔を乗せ、俺のシャツを握っている。


そうか…

俺…昨日の夜、我慢出来なくて

コイツにキスしたんだっけ…


こんな二人きりで

逃げ場のない場所でするなんて

ちょっと卑怯だったかな…


《僕は真古都さんがどうしても欲しい》

《早く僕のものにして彼女を抱きたい》


そうだ

霧嶋は本気だ

卑怯なんて言ってる場合じゃない

真古都は絶対渡したくない!



胸の上で、もぞもぞしたと思ったら

顔を上げた彼女と目があった


「あ…俺、先に起きて朝食の準備しとくからゆっくり支度して」


寝床から躰を起こすと、

真古都が赤く染まった顔を手で隠してる。



昨夜…瀬戸くんからキスされた…

いつもの額や頬じゃない


わたしの初めてのキス…


恥ずかしくて真面に瀬戸くんの顔が見れない

わたし…変な声出しちゃったし…



真古都の仕草が無茶苦茶可愛い!

ダメだ!

我慢しろ俺!


……って

我慢出来る訳ないじゃん


「んっ…」


俺は我慢出来ずに唇を這わせた

真古都はされるままじっとしている


「ん…せ…瀬戸くん」


首筋に唇を移した時

真古都が俺の名前を漏らした


その声で正気に戻る


俺は取り敢えず急いでテントから出て走った


『い…今は…

これ以上ダメだ!

まだちゃんと気持ちを伝えてないのに!

ただ したいだけだと思われる』



瀬戸くんが

いきなりテントから出て行ってしまった

わたし…何かいけなかった?

こんな事初めてで判らないよ…



瀬戸くんは頭から水を垂らして帰って来た


「せ…瀬戸くん!

どうしたの? びしょ濡れだよ」


「あ…いや…ちょっと頭を冷やしに…」


「えっ?」


「何でもない!」


「早く着替えた方がいいよ」

真古都がタオルを持って

心配した顔でオロオロしてる。



俺はテントに戻って

濡れた服を脱いで着替え始めた


『仕方ないだろ あれくらいしないと

おさまらなかったんだから…

大変だったんだぞ』


ズボンを履き替えたところに

真古都が入って来る


「瀬戸くん大丈夫……きゃあ」


まだシャツを着てない

上半身裸の俺を見て慌てている


「ごめんなさい!」

赤くした顔を手で隠しながら謝ってる


「お前いつから

男の着替え覗くシュミになったんだ?」

ちょっと揶揄ってみた。


「違う! 違うの!」

俺は外に行こうとする彼女の腕を掴んだ


「おい、そんなに見たいなら見せるけど?」

彼女をそのまま引き寄せる


「だから違うってーっ ごめんなさい!」


「ほらっ 来いよ」


「瀬戸くんのいじわる!」


裸の胸に抱き寄せられて真古都は真っ赤だ


「そんなに悪くないと思うんだけど?」


「もう! ごめんなさい!」


「どうだ?自分の彼氏少しは惚れ直した?」


真古都は真っ赤な顔をコクコクと頷いてる


『よしっ!毎日筋トレ続けてて良かった』


もう! 瀬戸くんのバカ!

悪くないどころかメチャクチャいい感じじゃない

元々他の男子に比べて体格はいいと思ってた


こんなに広くて厚い胸なんて反則だよ!

だからいつも安心して寝ちゃうんじゃん…

そう云えば一年の時、

わたしを平気でお姫様抱っこしてたっけ…


「もう!バカな事してないで早く着替えて」


わたしは恥ずかしくて、あたふたとテントから出た。



真古都のヤツ結構困ってたな…

少し揶揄い過ぎたか?


だけど…あれだけ俺を意識したなら

そのまま俺を好きになってくれないかな…



わたしは恥ずかしくて

近くの茂みまで走った。

心臓が今までにないくらいバクバクと音を立てている。


なんで なんでこんなに五月蝿く鳴るの?

心臓が口から飛び出そう…

昨夜 瀬戸くんがあんな事するから…


「瀬戸くんだって本当はもっと可愛い彼女が欲しい筈なのに…

わたしが間抜けなばっかりにごめんなさい」


「瀬戸くんあんなにカッコいいのに

わたしのためにちゃんとした彼女

つくれなくてごめんなさい」


「キスも初めてで

本当下手くそでごめんなさい」


わたしは目の前に立ってる木に向かって

自分の気持ちを吐き出した。


「そんな事はいーから」


突然後ろから瀬戸くんの声がする。

その声に心臓が跳ね上がる。


『き…訊かれた…』



「俺、別にお前で不満無いから

お前がちゃんと

彼女やってくれればいい事だろ?」


真古都のヤツ…

カッコいいとか言うなよ…恥ずかしい


でも、俺をそんな風に思ってくれて

メチャクチャ嬉しい…


木の前で、棒立ちしてる真古都に近づく。

彼女の頬に手を当てて顔を覗き込む。


「キスも男慣れしてる女よりよっぽどいいよ

大丈夫だ、俺が教えるから

お前は俺に任せてくれればいい」


真古都…

お前は罪悪感で彼女やってるだろうけど

キスを受け入れてくれる位は

距離が縮められた?


声も出せずに俺を見つめている彼女に

再び唇を重ねた。


ゆっくり舌を這わせて口を開けさせる…

絡ませた舌にどうしていいのか判らず

戸惑ってる感じが

なんとも可愛くて堪らない


このまま

俺を好きになってくれ…


俺の中はもうお前だけだ…


大好きだよ

真古都










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