第55話 夏休み最後のイベント

 わたしは端の方に座り、線香花火をしている。

線香花火の小さい輝きが好きだから。


「真古都さんはみんなと一緒にやらないの?」


霧嶋くんが側に来てわたしの隣に座った。


「大きな花火も綺麗だけど、線香花火好きなの」

「直ぐ落ちちゃうのに?」


霧嶋くんは不思議そうに見てる。


「派手な美しさはないけど、一生懸命綺麗な花を咲かせてくれるところが好き」


「真古都さん、ビックリさせてごめんね。

僕、きっと先輩が羨ましかったんだ。

いつも真古都さんの傍にいるから…」


わたしはなんて答えればいいのか判らない…


「真古都さん」

霧嶋くんがわたしの手を握る。

「真古都さんと少しでも長く一緒にいたかったから、きっと焦ってたのかも」

わたしに優しく笑顔を見せる。

「でも、僕のは真古都さんに全部使うって決めてるから覚悟しててね」

握った手にキスをしてくれる。


霧嶋くんて、凄く綺麗な顔をしてるから、手にキスするだけの仕草でも、本当に王子様みたいだ…


だけど、霧嶋くんが言った言葉の

をわたしは知る由もない

それが判るのはもっと後になってからで…

だからその時は 別段気にしていなかった…



出発した日と同じく、バスは校門前に停まり、解散となった。


「瀬戸くん、みんな喜んでくれて良かったね」

「そうだな」


いつものように家の近くまで送ってくれる。


「疲れただろう、今日はゆっくり休め」


額にされるいつも通りの優しいキス…

大丈夫、瀬戸くんのキスは平気だ…


「ありがとう、またね」



真古都を家まで送って、自分の部屋に戻っても

俺の心臓は忙しく鳴り続けている。


『来週は真古都を連れてキャンプだ…』


俺は翌日からキャンプの用意に余念がない。

初めてのキャンプだし無理はさせたくないな…

でも楽しい事はいっぱいさせてやりたい…


テントも初めてか…

寝袋 大丈夫か?

いや、そもそも俺と同じテントで大丈夫か?


俺はバカみたいに、

荷物を出したり入れたりしている。


……ってか、アイツ本当に来るのか?

合宿での霧嶋のこともあるし…

男と二人で泊まりがけのキャンプなんて

ドタキャンされるかも…



「翔吾、明日からキャンプだって?

お前の事だから心配はいらないと思うが

気をつけてな」


親父が声をかけてくれる。


「ああ、ありがとう」


そうか、親父は俺がいつもみたいに独りで行くと思ってるんだ…

まぁ、別に悪いことしてる訳じゃないしな…

本当に独りで行くことになるかもしれないし…



当日、待ち合わせの場所で

俺はなんとなく落ち着かなかった。


「瀬戸くんお待たせ!」

約束の時間より少し早く真古都は来た。


「初めてのキャンプだから、中々寝れなかった」

真古都は恥ずかしそうに笑ってる。


実は真古都が本当に来るのか気になって

俺も眠れ無かったが、言わなかった。



キャンプ場は、真古都があまり疲れないよう

近場を選んだ。

受付を済ませて、テントを張る場所に行く。


真古都は駅を降りてからずっと

あっちを見たり…こっちを見たり…


本当に遠足に来た小学生みたいだ…


テントを張る場所が決まったら

まず椅子を出して真古都を座らせる。


「疲れたろ? テント張っちまうから休んでろ」

「ありがとう」



初めてのお出かけに、嬉しくて眠れなかった。

キャンプ場に着くと、

瀬戸くんは椅子を出してくれる。


『いつも優しいな』


瀬戸くんは荷物から大きい袋を出して、

中から何本も長い棒を出して繋げていく。

さほど時間もかからず、

あっという間にテントが出来上がる。


違う袋を出して何かをまた組み立てている。

何かの武器みたいな大きなナイフで

薪を割ったり…


次から次へと出来上がっていく。


瀬戸くん凄い!


合宿でのバーベキューでも思ったが、

準備でも、後片付けでも、とにかく手際が良い。


「まぁ、取り敢えずこんなもんかな」


「瀬戸くん凄いね!」

真古都が羨望の眼差しで俺を見てる…


いやいや…

これくらい、キャンプ来るヤツなら普通だって!


あらかた準備も終わったので、真古都と一緒に

近くを散策して歩いた。


「瀬戸くん! 冷たいね!」


真古都は川の中に足を入れて大はしゃぎだ。

ニコニコ笑ってる真古都を見てると

やっぱり連れてきて良かったと思った。


薪を細かく削り、火を着けていく。

「おーっ!」歓声と共に拍手…


いや…これくらいで拍手って…

恥ずかしいから…


「焚き火見てるだけでも楽しい…」

「でしょ」


夕食の後、二人で焚き火の前に座って

ゆっくり時間を過ごす。


「マリアージュフレールだ」


出した紅茶お茶に幸せそうな顔をしてる。



「真古都、お前寝袋に寝れるか?」

「……」


テントに入る前に訊いた。

まぁ…大体予想はしてたけど…


俺は寝袋を広げて布団のようにする。


「真古都、来い」


俺は自分の隣に誘った。

真古都はモジモジしながら俺の隣に入って来る。

合宿での霧嶋のこともあったから、

一緒に寝るのは嫌がるかと思ったが

含羞みながら傍に来てくれる。


「真古都、お前家にはなんて言って来たんだ?」

「同じ部活の人とキャンプ…」


真古都は

俺の腕枕でもう眠そうだ


「ま…まぁ…嘘じゃないな…」


真古都の寝息が俺の胸の上から聞こえる。


自分で誘っといてなんだけど

こんなに簡単に男と寝ちゃダメだろ…

襲われたらどうするんだよ…


ま…俺は彼氏だから良いって言ってあるけど


どんな理由でもいい

コイツは今俺の腕の中で眠ってる


俺には少なくとも背中を向けずに

自分の躰を預けてくれてる


一緒に寝るの俺だけだからな

















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