第54話 これから先の不安

 俺と真古都は、昨日来た牧場へ来ていた。

課題の絵を描くためだ。

お互いに気に入った場所で自分の絵を描く。


霧嶋は俺たちが出かける前に、一年の女子に連れていかれたらしい。


そう云えば、昨夜のは何だったんだろう…

真古都が俺の腕から離れようとするなんて…

初めてのことだ…


俺を嫌になった?

他に大切なヤツが出来た?


どっちも考えたくない…


他に何かあったのか?

こんなに気になるなら

昨夜訊いておけば良かった…


『アイツ…辛そうな顔してたよな』


色々考えていたら、絵の完成に時間がかかってしまった。俺は道具を片付け、真古都がいる方へ歩いて行った。


『多分、牛がよく見えるところで描いてる筈…』


牧場に近づいて行くと、突然真古都の声がする。


「嫌っ!」


俺は持っていた荷物を放り出し、声のした方へ走って行く。

すると、前から誰か走って来る。


霧嶋だ!


霧嶋は俺に気付いたが、そのまま走って行った。

俺はどうしようもない不安に襲われ、霧嶋が来た方向に無我夢中で走った。


牧場の柵が見える場所に真古都はいた。


「真古都!大丈夫か?」


走って近づくと、俺に気付いた真古都が慌ててその場を離れようとする。


『まただ!』


真古都がいくら走っても、俺の足には敵わない。

直ぐに追いつき、腕を掴んで抱き寄せる。


「おい、真古都待てって! どうした!?

霧嶋と何かあったのか?」


俺は不安で、彼女を掴む手もつい力が入る。


「お願い離して! ダメなんだってば!

どうしてもダメなの!」


やはり彼女は俺の手を振りほどこうとする。


「ダメじゃわからない!

大丈夫だから俺に言ってみろ!

霧嶋に何か酷い事をされたのか?」


俺は離れようとする彼女の躰を押さえつけ、

自分の腕の中に抱え込んだ。

『くそっ!絶対離すかよ!』


力じゃ敵わないのは彼女も判っている。


「き…霧嶋くんは悪くない…わたしが…

わたしがまだ男の人を好きになれないから…」


真古都が俺の腕の中で泣きながら話し出した。


「霧嶋くんが、あんなに優しくしてくれるのに…

どうしても踏み出せない…

気持ちには応えられない!」


「大丈夫だ!焦らなくてもそのうち

ちゃんと気持ちがついてくるから!」


真古都を胸に抱きしめ諭す。


『あいつ!

真古都を泣かしやがって!

それに…霧嶋じゃなく俺を見てろよ

お前、俺の彼女だろーが!』


「瀬戸くん…わたし怖いんだよ…」


真古都が俺の胸に顔を押しつけて話し出した。


「最近、先輩に会った時の夢を見るの…

あんなに好きだった先輩が怖くて…

気持ち悪くて…

今でも思い出しただけで吐きそうになるの…」


「それは…あの男がクズだから…」


「そんなの判らないじゃん!

付き合ってもそのうち突然嫌になったら…

わたしにはやっぱり男の人と付き合うなんて

最初から無理だったんだよ!」


そう言い泣きながら俺に強くしがみついてくる。


「真古都…正直に答えろよ俺に抱かれて嫌か?」


彼女は俺の胸の中で首を横に振る。


「俺が触って気持ち悪いか?」


また横に振る。


「俺がキスしたら吐きそうになるのか?」

真古都の頬に触れ、髪をかき分けて訊く。

彼女は紅潮した顔を横に振った。


「前にも言ったな

俺が彼氏の間はお前にあんな思いはさせないと

俺が信じられないのか?」


真古都は首を横に振ってくれる。


「だったら余計なこと考えず

俺についてくればいいんだよ!」


真古都はコクコクと頷きながら

赤く染まった顔を俺の胸に押し当てていた。



真古都は折角のバーベキューに

喧嘩したままでは嫌だと霧嶋に謝りに行った。


「ありがとう瀬戸くん

わたし霧嶋くんに謝って来るね」


『悪いのは無理強いした霧嶋の方だろ…』

俺はちょっとおもしろくない。



バーベキューは盛り上がり、その後の花火も

みんな楽しんでいた。


「三ツ木先輩、バーベキューの時瀬戸先輩カッコ良かったですね」

一年の女子が真古都に話している。


「そうなんだよ!瀬戸くんは何でも出来て

わたしには勿体無いくらい

なんだ」



おい真古都…

そこはじゃなく


って言えよ!








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