第51話 初めての約束

2拍3日の合宿を3日後に控え、俺は学校に来ている。


『最終チェックも済んだし…

あとは合宿当日を迎えるだけだな』


部室のドアが開いて真古都が入ってきた。


「あ…瀬戸くん、おはよう

もしかして終わっちゃった? ごめん」

真古都が入って来るなり謝ってくる。


「気にするな、俺が来たのが早すぎた」


俺と真古都は合宿の最終チェックに、部室に集まった。


「合宿、みんな楽しんでくれるといいね!」

「課題の制作以外は、ほぼ自由行動だしな

部長も細かい事気にしないし

みんな旅行気分だろ」


二年になって、二人でした最初の大きな企画だから、俺としてもこの合宿は成功させたかった。


「わたしね、

みんなでやるバーベキュー楽しみなの。

今までしたこと無いから」

真古都は楽しそうに話す。


「瀬戸くんが火起こし出来て良かった!」

「絵を描きによく1人でキャンプ行くから」


俺は真古都があんまり楽しそうに話すから、

つい、いつもは言わない事を口にしてしまった。

今まで、1人キャンプなんて

バカにされこそすれ

良く言われた例がない。


「1人で? やっぱり瀬戸くんすごい!!」

真古都は俺が1人でキャンプに行くと訊いて驚いている。


「わたしなんて、

キャンプ事態行ったこと無いのに

瀬戸くんて、本当に何でも出きるんだね」


全く…コイツは俺を一体何だと思ってるんだ?

1人でキャンプに行くくらい

大したことないのに……


『1人キャンプを誉められたの初めてだな』


「いいなぁ」


「今度一緒に行くか?」


真古都が羨ましそうに俺を見て言うから、

深く考えずに誘った。


その途端、彼女は少し困った顔になる。


「連れてってくれるの?

本当は行きたいけど……」


当然だ。

女の子が男と二人でキャンプなんて、

行ける訳がない。

『ま…泊まりになるし…無理だよな…』


「いや、ちょっと言ってみただけだから

気にするな」

何でもない顔で俺は言った。


それでも真古都は申し訳ない顔をしてる。


「わたし…

人混み苦手だから…それに体力もないし…

野外活動とかした事無いの…

折角誘ってくれたのにな…」


本当に残念そうだ。


「GパンにTシャツくらいあるだろ?」


思わず訊いた。

真古都はますます俯きだした。


「ごめん…Gパン持って無い…」


そう云えば、コイツの私服って

長めのスカートばかりだったな…

俺は、以前出かけた時も、

一緒に宿題をした時も、

一度もスカート以外見ていない事を思い出した。


「その…何だ…

Gパン買ってやったら一緒に行くか?

キャンプ用品は俺が持ってるから大丈夫だし

合宿が終わったら連れて行くぞ」


俺は断られるのを覚悟でもう一度誘ってみた。


「ホントに? いいの?」


真古都の顔が明るくなる。


「その代わりキャンプなんだから泊まりだぞ?

いいのか?」


「うん、行ってみたい」

子供のようにねだる真古都が可愛かった。



その後俺たちはショッピングセンターに行き

真古都にGパンを買ってやる。


「ど…どうかな?」

試着室から恐る恐る出てきた。

「いいんじゃないか

そのサイズで2本買おう」


喫茶店で、持ち物やあると便利な物を教える。

真古都はそれをニコニコしながらメモしている。

まるで遠足前の小学生みたいだ。


こんなに喜んでるんだ

当日は楽しんでくれたら俺も嬉しい…


「それじゃあ、真古都は食材の方頼むな」

「任せて 任せて!」


帰り道でもご機嫌なのが手に取るように判る。


『相変わらず単純なヤツ』


でも、この単純なヤツが

俺には

誰よりも愛しい…


「せ…瀬戸くん…

我が儘言ってごめんね…

いつもは1人なのに…こんな初心者が一緒で…

旅行とかも行った事ないし…

外に出るの初めてだから…

誘ってくれて…ホントに嬉しい…

ありがとう」


俺を見上げて、含羞むコイツが

可愛くて堪らない。

あれほど男と二人きりになるなと言ったのに…

まぁ 相手は俺だからいいか…


真古都の額にいつもより長めのキスをして

その日は別れた。


プライベートでした

真古都と初めての約束だ


その日

俺の鼓動はやたら五月蝿かった







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