第50話 宿題と課題

 朝、駅に着くと瀬戸くんが待っててくれる。

瀬戸くんのおうちで一緒に宿題をするようになって三週間になる。


瀬戸くんは、わたしのクラスよりずっと多く出されているのに、もう終わって今はわたしの宿題を見てくれてる。



「社長!また行くんですか?」

事務室から出ようとする翔吾の父親に向かって、経理の露月が声をかける。


「お前は心配じゃないのか?あの家で二人きりなんだぞ?」

その台詞は、一緒に宿題をするようになってこの三週間、毎日訊いている。


「それで?毎日こっそり様子を見に行ってどうなんですか?」

少しうんざりした顔で露月が訊いた。


「いや…その…なんだ…

まるで塾の講師と生徒だったな…」


露月が深い溜息を漏らす。

「でしょう?宿題をすると言ったんですから、

宿題をしてるんですよ。」

「そうか…」

それでもまだ納得がいかず事務室の中をぐるぐると歩き回っている。


『まぁ、翔吾くんも男の子ですからね…

何かあるとすれば、宿題が全部済んだ後か…

あまり暴走するなよ…翔吾くん……』

翔吾を小さい頃から知っている露月にとっても、心配する気持ちは一緒だった。 



「やったぁ! 終わり!」

真古都が凄く喜んでる。

その姿が可愛い…


「瀬戸くん

こんなに早く宿題終わったの初めてだよ!

ありがとう!」

まるで、俺に飛び付いて来そうな勢いだ。


「そりゃあ良かった

俺も教えた甲斐があったよ

ご褒美くれる?」

大して深い意味は無かった。


「いいよ! 何がいい?

瀬戸くんにならなんでもあげちゃう!

奮発するよ!」


思いの外宿題が早く済んで嬉しかったのだろう

間髪入れずに真古都が言った。

そう…真古都も深い意味があって言った訳じゃない事くらい判る。

……判るけど………


『おいおい…その言い方誤解をうむだろ?

お前が欲しいって言ったらくれるのか?』


なんだかそう思ったら

自分だけが心を乱されて、

少し意地悪を言いたくなった。


「じゃあ真古都からキスして」


「えっ?」


途端に顔を赤く染めて俯き所在なげにしてる。


『困ってる困ってる…』


どうせ

真古都からキスなんて出来る訳無いんだから

ちょっと助け船を出すか…

そう思った瞬間


「!」


「えっ? えっ? えっ?」

思いもかけないことにびっくりする俺


真っ赤な顔を両手で覆い俯いている真古都


ベッドに腰かけ、困ってる真古都を見てたら、

もじもじしながら側に来て

俺の頬にキスをしてくれた。


『真古都から……してくれた?』

俺はもう、頭が真っ白になり、

何も考えられないくらい嬉しかった。


横で俯いてる真古都を抱き寄せた。

「ありがとう」

嬉しくて、それ以上の言葉が出ない。


「今は…これで我慢して」

彼女は俺の胸に顔を埋めて言った。


『誰にも渡したくない…』


そう思った時、ひとつの事が頭に浮かんだ…



俺は真古都の躰を自分から引き離すと、

そのまま彼女をベッドの上に押し倒した。


「あ…あの…瀬戸くん……?」

上から見た真古都の顔が戸惑いの表情に変わる


「女と二人きりでいるのに、

男が何もしないとでも思ったか?」


俺は彼女に覆い被さり近づいた。


「男の部屋で二人きりになる意味判るな?」


真古都は言葉も出せずに俺を見つめている。


「何されるか覚悟出来てるんだろ?」



瀬戸くんがわたしをベッドに倒した。

彼の顔が上から近づいてくる。

最初、何を言われてるのか判らなかった。

そんな事考えた事も無かったから…


「真古都…」


瀬戸くんの手がわたしの顔に触れたら

何も考えられなくなって

思わず目を閉じてしまった…


  パンッ!

「あいたっ!」


瀬戸くんが大きな手でわたしの額を叩いた


「何、目なんかつぶってんだこのバカたれ!」

瀬戸くんの怒ってる声がする。


「ここはダメでも拒否するところだろーが!」


目を開けると瀬戸くんの顔がすぐ傍にある。


「いいか

男と二人きりになるってこう云う事なんだぞ?

いつ襲われてもおかしくないんだ」


瀬戸くんが真面目な顔で怒ってる。


「その気が無いなら

軽々しく二人きりになったらダメだ

どんなに仲が良くてもダメだぞ!

男がその気になったら

止まらないんだからな!」


「ご…ごめんなさい」


「……ったく、世話やかすなよ」

瀬戸くんはそう言って

わたしの隣にゴロンと躰を横たえた。


「危なっかしいな…

最初の日から全然自覚無いから

そのうち言おうと思ってたんだ」


「ごめんね、本当に気を付けるから」

わたしは躰を少し起こして、瀬戸くんの方へ

向いていった。


「ああ、あんまり心配させないでくれ」

『瀬戸くんて、本当にいい人だな』


「折角だから傍に来いよ」

瀬戸くんがわたしを引き寄せた。


「えっ?」

「俺は彼氏だからいいんだよ

俺以外は絶対ダメだぞ、お前だって

彼氏が他の女の子とそんな風になったら

嫌だろ?」


瀬戸くんが優しく言ってくれる。

「されて嫌な事はお互い一緒だ」


そう云えば、瀬戸くんの気持ち考えてなかった

わたしは凄く反省する。


「お前が男に対して

期待してない気持ち判ってるが

俺が彼氏の間は絶対そんな思いさせないから」


瀬戸くんがわたしの背中を軽く叩く

「お前もしっかり彼女やってくれよな

俺を泣かすなよ」


わたしは恥ずかしくなって

瀬戸くんの胸にまた顔を埋めてしまう。


「わたしが瀬戸くんを泣かすなんて

烏滸がましいです………」


瀬戸くんはこんなに色々考えてくれて…

だって勿体ない彼氏だ…

『瀬戸くんの胸…あったかいな…』


気がつくと、真古都は俺の腕枕で寝息をたててる


『ねてる………』


俺は…十分お前に一喜一憂してるよ


俺の胸で寝るって

俺を信用してるのか?


さっき、あのまま続けてたら

俺を受け入れてくれたか?


ふりだろうが

なんだろうが

俺はコイツの彼氏を誰にも譲らない!


このまま

お前を本当に俺の彼女にするんだ


俺の絶対な“課題”だな……










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