第49話 夏休み

「瀬戸、この夏休み彼女さんと出かける予定は?」


柏崎が声をかけてくる。

明日から夏休みだ。

俺にやっと彼女が出来たと思ったら、

その彼女を、校内一のイケメン王子がご執心とあって、何かと心配してくれる。


「いや別に…合宿もあるし」

「お前、それダメだろ」

俺の返事に柏崎がピシャリと言った。


「みんなで行く合宿と、二人きりのデートを一緒にするな。彼女だって、誘ってくれるの待ってる筈だぞ!」


「夏休みの予定たてたか?」

柏崎の忠告もあって、俺は真古都に訊いてみた。

「う…ん

合宿もあるし、明日から当分図書館通いかな……宿題終わらせないと…」


宿題か…ウチの学校、可成りの量が出るからな…



鴬の森図書館

大きいし、休憩室もあって、お昼はそこで食べられるから1日いても大丈夫。

わたしは宿題が終わるまで、今日からここに通うことにした。


『さぁ、やるぞ!』

………?

………?

既に1問目から悪戦苦闘だ……


午後になっても一生懸命問題を解いていく。

わたしが次の問題を解いていると、肩越しから手が伸びて、プリントの問題を指された。

「おい、ここ違うぞ」

「えっ?」


午前中は画廊の店番があったので、午後になって図書館に来てみた。

真古都が来ていればいそうな場所は検討がつく。


フリースペースの隅に真古都の姿を見つける。

近づいて、声をかけようと何気に手元のプリントを見る。『結構出来てるな』と思いきや、

問題は解いてるが答は間違ってる。

やれやれ……


「瀬戸くんありがとう!宿題大分進んだよ」

終わったプリントの束を持って、嬉しそうに笑顔を向けてくれる。

「一緒に宿題やるか?解らないところ教えてやれるし」

問題が解ける度に、喜ぶ真古都の顔が見たくて俺は提案した。

「いいの? 嬉しい」

勉強くらい、幾らでも教えてやる!

「じゃあ明日からはウチへ来いよ。参考書も揃ってるし」

「やったぁ!ありがとう」


真古都を送った後、俺はショッピングセンターで茶葉を買った。



「露月くん!翔吾がおかしい!」

「なんです?最近は落ち着いていたんじゃないんですか?」

事務室に入ってきた社長に、経理の露月は聞き返した。

帰る時間が以前より遅くなったが、二年になれば色々あるのだろうと二人とも思っていた。


「今度はどうしたんです?」

「翔吾が、お茶の用意をしてる…」

「はっ?」

一瞬何を言っているのか判らなかったようだ。


「お茶だよ!ティーポットだったから紅茶だな」

社長の家は翔吾くんとの男二人だから

基本的に珈琲が多い。

それをわざわざ紅茶とは…


「つ…露月くん!どうする」

社長は呆れるほどおろおろしている。

「落ち着いて下さい!まだ誰が来るのか判らないんですから」

そう言って窘めた。


「だが…やっぱり女の子だろうか…」

「そう考えるのが妥当でしょうね」


家によぶ女の子…

保護者二人はこの後仕事にならない……


「去年、文化祭でみたあのか?」

社長は檻に入れられたアライグマのように、落ち着きなく事務室の中を動き回っている。


「まぁ、翔吾くんの性格からいって、相手を変えることは考え難いと思いますからね」


「ここに寄るかな…?」


「家に入ってしまえば二人きりですし…

疚しいことが無ければ最初にここへ寄って

紹介すると思うんですが…」


「おい、疚しいことって…」

社長が青い顔で訊いてくる。


「だから落ち着いて下さいって!物の例えですよ!大体、どんな関係かもまだ判らないんですから!」


その時、事務員の女性から声がかかった。



瀬戸くんのおうちの画廊、初めて来たけど素敵だな…

若手の作家さんが多いって訊いたけど、

どれも良い絵だと思う…


『なんか緊張するな…』

わたしが両手をお腹の辺りで

ギュッと握ってると、その手を瀬戸くんが

軽く叩いてくれる。

「大丈夫だ」

瀬戸くん優しいな…

「ありがと」


店内に入ろうとして、この状況を見てしまった二人は、自分の目を疑った。


「翔吾が女性の手を握っている!?」


「あっ…親父、 露月さんも、丁度いいや」

二人の姿に気づいて声をかけてきた。


「翔吾、こちらのお嬢さんは?」


「同じ美術部の三ツ木真古都さん。当分一緒に宿題やることにしたから言っとこうと思って…

あと、俺の彼女だから」


「か…彼女? 今彼女って言いませんでした?」

「聞き間違いで無ければ私もそう聞こえたが?」


「なんだよ二人とも…

だからそう言ってるじゃん

しっかりしてくれよ、ボケるの早いだろ!」


『そりゃ…息子の彼女がわたしじゃ

ガッカリするだろうな…ごめんなさい』


「…ったく、

二人一遍にボケるのは勘弁してくれ

真古都、これ俺の親父。

それとこっちが経理の露月さん

俺が子供の時からいる人なんだ」


「あ…はじめまして三ツ木真古都です。

よろしくお願いします」


「真古都さんといったね。翔吾は男手で育った所為か堅物で面白味のない男だがよろしく頼むよ」

「翔吾くんは少々口は悪いですが、心根は優しいヤツですから」


大の男二人に頭を下げられ困惑する。

「い…いえ…

瀬戸くんは人柄も素晴らしく、わたしには勿体ない彼氏でございます!」


「どう云う評価なんだよ二人とも…

紹介も済んだから、そろそろいくぞ真古都」

「はいっ」


息子の後を追っていく彼女を見送りながら、

彼の初めての恋が長続きするようにと、

切に願った。

















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