第52話 合宿初日

 集合は学校の校門前。

移動は貸し切りバスにした。

これなら、みんな多少荷物が多くても負担が少なくて済む。

今年は新入部員も入って全員で16名だからちょうど良かった。


俺と真古都は一番前に座る。

纏め役と云う事もあるが、あまり出かけたことの無い真古都が、バスで乗り物酔いするかもしれないからだ。


「大丈夫か?具合悪くなったら直ぐに言えよ」

俺は真古都の頬を軽く撫でながら声をかけた。


「ありがとう」

紅潮させた頬を、差し出した手に預ける仕草がなんとも言えず愛しい。


「もう、の真古都さんにベタベタ触んないでよ!」

後ろの座席から顔を出して、霧嶋が不貞腐れて文句を言ってる。


「黙れ霧嶋、いつからお前のになったんだ?

相変わらず彼氏の前で良い度胸してるな!」

俺は睨み付けながら霧嶋に言い返す。

はね。そのうち絶対僕のにするから!」

彼はあっけらかんと答える。


『こいつ!いつか絞め殺す!』



「あの二人またやってますよ」

呆れ顔で三年の虹之世勝矢にじのせかつやがもらす。

「ホント、霧嶋も懲りないよな。

まぁ、あいつらのことは美術部うちじゃ誰も気にしないし…良いんじゃないか」

部長の和泉が笑って答えた。

「端から見てると笑えますしね」

同じく三年の西寺恭帆にしでらきょうほがやはり笑いながら言った。


この三人は、去年一年生の時より瀬戸翔吾が三ツ木真古都の為に気を配っていたのを見ているので、どちらかと云えば瀬戸の応援組だった。


途中ドライブインに2度寄り、目的地に到着した。

場所は夏でも涼しい景色の良い高原。

場所を決める際、海と山では二人とも山を選択したからだった。

宿泊先は市営の会館なので、食事は自炊だが設備は整っていて良い処だった。


「出発までに、文化祭で展示する作品を一点完成させる事。あとは自由だ。但し、出かける際は三年か副部長のどちらかに行き先を伝え、夕食迄には戻るように!以上」


部長の話が終わると、それぞれ自分の部屋に荷物を置きに行った。


『荷物置いたら牧場に行ってみようかな……』


体操着から制服に着替えると、ドアをノックする音がしたので開ける。


「瀬戸くん? どうしたの?」

「悪い、出かけるところだったか?」

瀬戸くんも制服に着替えてる。


「うん…牧場に行ってみようかなって…」

真古都が遠慮がちに答える。


「ちょうど良かった。俺も誘いに来たんだ。

お前、牛好きだろ?」


う…恥ずかしい……


「どうせお前のことだから、他に人がいたら1人で行けないだろ?」


当たってるだけに何も言えない……



瀬戸くんと近くの牧場まで歩く。

風が涼しくて気持ち良かった。


『嬉しいな…本当は1人で不安だったから…』


横を歩く瀬戸くんを時々チラッと見る。

その度に心臓がきゅっとなる。



牧場に連れて行くと言ったら

凄く喜んでた。

いつもと違う場所を

真古都と一緒に歩くのも悪くない。


歩きながら、時々俺の方を見ては

嬉しそうな顔で笑っている。

そんなに牧場に行くのが嬉しかったのか?


『相変わらず子供みたいなヤツだ…』



夕食が済んで、風呂からあがると中庭に真古都が1人で座っている。


「何やってんだこんなところで」

暗い中庭にいるので声をかける。


「あ…瀬戸くん…

お風呂入ったら暑くなっちゃって」


「バカじゃないのか!

こんな暗いところで危ないだろ!」


全く手のかかるヤツだ…


「あーっ! 二人でどこ行ってたの?」

宿舎に入ると霧嶋くんがいた。


「ちがうよ

外で涼んでたら危ないって怒られてたとこ

二人ともまた明日ね

おやすみなさい」


「いいな…

真古都さん可愛い」

部屋に戻っていく

彼女の後ろ姿を見て霧嶋が呟く。


「お前

よく恥ずかしげもなくそんな事言えるな」


「だって本当に可愛いもの…大好き」


霧嶋が俺の方を見て笑う。


「先輩って 案外純情ですよね…

でも、見てるだけじゃ伝わりませんよ

特に真古都さんみたいな女の子タイプには…僕はそんなの嫌なんで

早くちゃんとキスしたいし」


霧嶋が当然のように言う。


「黙れ霧嶋!」


俺の真古都にキスだと?


「お前真古都をそんな風に見てたのか?」


真古都をそう云う対象に見られたことが

無性に腹が立った


「やだな、当然でしょ

聖人君子じゃあるまいし…

先輩はしたくないんですか?

真古都さんとキス 僕はしたいですよ」


俺は何といって良いのか言葉に詰まった


「好きなんだからキスだけでなく

抱きたいと思ったって普通でしょ?

僕だって男ですから

性欲だってありますよ」


確かにそうだ…

女みたいな綺麗な顔してたって

こいつは男なんだから


「もう…本当に変なトコ真面目なんだから…」


そりゃあ…

付き合っていれば

いずれはそう云う事もあるだろうけど…


まさか…

霧嶋がそんな事まで考えてたなんて…



















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