第46話 真古都さんへの想い

 「最近の調子はどう?変わった事は無い?」


「特にありません」


毎回交わされる主治医との会話。

調剤薬局で受け取るウンザリする量の薬。

これが無ければ僕は学校にも行けないし、

日常生活も儘ならない…


僕は前の学校を逃げるように転校し、

今の学校に来た。


そして僕はこの学校で、初めて恋をした。


僕の周りにはいつも女の子が纏わり付いてくる。

でも…彼女たちが欲しいのは

僕じゃない

僕の


彼女たちにとっては

本当の僕なんてどうでもいい


僕が恋をした女の子


彼女はの女の子だ。

特別なものは何も無い。


僕が園芸部に入って間もなく、

朝の水やり当番が回ってきた。

いつもより1時間早く学校に着くと、

既に彼女は来ていて、花壇で花の手入れをしていた。


「今日のお当番は霧嶋くんなんだ。」

彼女は花壇の手入れで汚れても気にしない。

虫も平気で掴んで容器に入れている。


「虫、手で触れるの?」

ビックリして訊いたら、

「園芸してたら虫なんてしょっちゅう出るよ?」

そう、当たり前に話してくれる。


今まで僕の周りにいた女の子たちは、

ほんの小さな蟻でさえ大騒ぎしていたのに…


「今日はご苦労様!ありがとうね」

当番が終った僕に声をかけた後、

彼女は虫の入った容器をもって歩きだした。


「それ、どうするの?」

僕は不思議に思って訊いてみた。

「校舎の裏へ捨てに行くの。

この子たちは根っこを荒らしたりするから

花壇には置いておけないけど、

こっちの勝手で殺しちゃうのは可哀想だから」

そう言って照れ笑いをしてる。


「虫なのに…」

「どんな命にも生まれてきた意味があるから、

無闇に殺せないよ」


彼女は裏庭の外れに集めた虫を捨てていた。


「僕にも…生まれてきた意味があると思いますか?」

何気なく訊いてみた。


「そんなの決まってるじゃない」

笑って答えてくれる。


「どうかな…僕みたいな親不孝者、

生まれてこなかった方が良かったのかも」

僕は皮肉混じりに言葉を返した。


「そんなことある訳ないよ

霧嶋くんが生まれてきて

幸せな人はたくさんいる筈だよ」

彼女は真面目な顔で僕に話す。


「だから、今度は霧嶋くんが誰かを幸せにする

それが霧嶋くんの生まれて来た意味だよ」

そう話す彼女の顔が頭から離れなかった。


彼女は園芸部の手伝いをしてるけど

美術部の人だ。


いつも普通に話してくれるけど、

他の女の子みたいに特別な関心を

寄せて欲しくなって

何度も彼女にアプローチしてみた。


結果はまるでダメ!

何をやっても暖簾に腕押しだった。


彼女にとって僕は

たくさんいる男子の中の一人にすぎない。


いつも彼女が優先するのは

同じ美術部にいる一人の男子。

そいつには他では見せない可愛い顔で笑う。


彼女があんなに可愛い顔を向けているのに

そいつはいつも仏頂面で、

口が悪く彼女を呼び捨てにする。


あんな笑顔、僕にだって向けて欲しいのに!


僕はそいつに嫉妬した。

初めて彼女への気持ちに気づいた日だった。


だけど…

そいつが彼女をに思ってるのは

薄々感付いてた。


僕は彼女から言われた言葉が忘れられず

久しぶりに母さんに電話した。


「どうしたの?何かあったの?」

母さんの第一声は僕を心配するものだった。


僕の母さんは日本にはいない。

父さんがフランス人だったから

今はその生家で仕事をしながら暮らしている。


「何にもないよ

久しぶりに母さんの声が訊きたくなっただけ

母さん…

僕みたいな子供が生まれてきて後悔してない?」

僕は訊いてみた。


「今更何言ってるの?

数祈が生まれてきてくれたから今の幸せがあるのよ」

僕は嬉しかった。


父さんは僕が12歳の時亡くなった。

今の僕と同じ病気で…


「そんな事でわざわざ電話してきたの?

それとも…もしかして探したい女の子ひとが見付かったの?

どんな

もう告白はしたの?」

母さんは立て続けに訊いてくる。


「もう、急勝せっかちだな

まだ知り合ったばかりだよ

でも…凄く素敵な女の子ひと

厄介なライバルがいるかな

それに、今傷心中だし」

僕は彼女を思い出しながら伝えた。


「何言ってるの!

そんな時こそ支えてあげなさい

周りに何を言われても気にすることないわ

数祈の時間を

そのに全部使ってあげなさい」


「ありがとう母さん

次には良い報告が出きるように頑張るよ」


「待ってるわね」


ごめんね母さん

こんな僕を一人日本に残すのは辛い筈なのに…

僕の我が儘で本当にごめんなさい


真古都さん

覚悟しててね

絶対に逃がさないよ


必ず君を僕のものにしてみせるから!






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