第47話 近いのに遠い

 「今日は…悪かった。 一人にしたばっかりに嫌な思いをさせた…」


いつものように、家の近くまで送ってくれると

瀬戸くんはわたしを抱き締めて

先輩との事を謝ってきた。

瀬戸くんが悪い訳じゃないのに…


先輩がわたしの躰に触れてきた時

気持ち悪くて…怖かった…


「わたしの方こそ、瀬戸くんがいて助かった…

わたし一人だったら…きっと先輩に…

逆らえなかった…」


わたしの頬を伝わってしずくが落ちる。


「真古都?」


「こ…怖かった…瀬戸くん…」


躰に触れられた事を思い出すと

怖くて…気持ち悪くて…吐きそう…


「俺と一緒の時は、もう二度とあんな思いは

させないから!」


嗚咽を漏らすわたしの背中を

瀬戸くんがさすってくれる。


触れられてるのは同じなのに…

先輩の時はあんなに気持ち悪かったのに…




今背中をさすってる瀬戸くんの手は

優しくて…こんなに安心していられる…


あの時の、怖くて気持ち悪い思いを

自分ではどうすることも出来ずに

わたしは両手で瀬戸くんの背中を強く握って

暫く涙が止まらなかった


「ごめんなさい…またわたし…迷惑を…」

「そんな事、思ってる訳ねぇだろ」


瀬戸くんの大きくて太い指が

わたしの前髪をかき分け隙間に現れた額へ

優しくキスをくれる。


「瀬戸くん…この前はごめんなさい

わたし…恥ずかしくて、

どうしていいか判らなくて…

つい、俯いてしまって…

瀬戸くんに嫌な思いをさせちゃった…」


「いや…俺も

気付いてやれなくて悪かった…」


瀬戸くんの傍だと何も怖くない…


「今日はゆっくり休め」

「うん」


瀬戸くんが、二度めのキスを

今度は頬にくれる。

瀬戸くん…優しいな…



真古都と別れた後、俺は大きく息を吸って吐いた

鼓動がうるさいくらい鳴り止まない


アイツが…自分から俺の背中に手を回してくれた


どうしようもなく嬉しくて…

どさくさに紛れて二度もキスして…

やらしいヤツとか

思われてないだろうな…


〔お慕いしています〕

もう一度あの言葉を貰えるなら

俺はきっと何でもする


どれだけ平静を装おっても

思ってた以上に重症らしい…



朝、登校時

眼鏡をかけてない真古都さんに

一瞬ドキッとする。

凄く可愛かったから…


先輩にコンタクトを買って貰ったと訊いて

悔しかった。

『もうっ!

コンタクトくらい僕が買ってあげたのに!』


真古都さんが前を歩いてる先輩を見つける。

「瀬戸くん、おはよう」


「真古都さん、

今度は僕と、どっかお出かけしよ!」

先輩と二人で出かけたのが悔しくて、真古都さんにねだる。


「えっ?部活のお仕事だったんだよ?」


真古都さんはそう思ってるだろうけど、絶対先輩は違う筈だ。


「それでも、

きっといい思いしたんだろうなぁ…」

僕が皮肉混じりに言うと、先輩がバツの悪い顔をしていた。


「黙れ霧嶋」

「ふ~んだっ!」


大体、いつも邪魔ばっかりするから

僕と真古都さんの距離が

少しも縮まらないじゃないか!

全く、あの朴念仁め!


あんな、真面に告白も出来ない先輩が

真古都さんに何か出来るとは思えないけど

ああ云うのに限って

一度ストッパーが外れたら判らないからな


その前に真古都さんを振り向かせないと…


真古都さんは先輩のことをどう思ってるのかな…









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